1930年(昭和5年)当時の上海における国民党(中華民国国民政府)の軍事・治安組織は、「上海本土(華界)」を管轄する軍警・諜報機関を中心に構成されていた。
当時の上海は、外国人居住区である共同租界・フランス租界と、中国人管轄区である華界に分裂していたため、国民党軍の組織および管轄範囲は極めて特殊な形態をとっていた。
1.最重要最高機関:淞滬警備司令部(しょうこけいびしれいぶ)
淞滬警備司令部は、上海および呉淞(ウースン)地域の軍事防衛・治安維持・共産党鎮圧を一括して管轄した最高軍事機関である。
本部所在地は上海南部の龍華であり、「龍華警備司令部」とも呼ばれた。
主要人物(当時の司令官)は熊式輝(ゆう しきき)である。
主な内部組織は以下のとおりである。
参謀処:作戦および防衛計画の策定を担当する部門である。
稽查処(けいさしょ):諜報・特務活動および反政府活動の監視を担当する。
軍法処:裁判および監獄(龍華警備司令部監獄)の管理を行う部門であり、多くの共産党員や反蔣介石勢力がここで収監・処刑された。
直属部隊:特務団(警衛部隊)、装甲車連(装甲車中隊)、通信連などを含む。
2.駐屯陸軍部隊(正規軍・警備部隊)
1930年当時、蔣介石率いる南京政府は「中原大戦(北洋軍閥残党との内戦)」を戦っており、主力部隊の多くは内陸部へ出動していた。
上海周辺には以下の部隊が駐屯していた。
警備特務団:警備司令部直属の治安維持部隊である。
駐屯師団:上海周辺の要衝および呉淞要塞の警備に配備された中央直系部隊である。
第19路軍の動向(1930年〜1931年):広東系部隊である十九路軍(総指揮:蒋光鼐、副総指揮:蔡廷鍇)は、1930年の内戦を経て上海〜南京沿線の警備に配置され、のちの第一次上海事変(1932年)において日本軍と戦闘を行う主力部隊となった。
3.警察・準軍事組織
これらの組織は軍部と密接に連携し、華界(中国管轄区)の日常的な治安・取り締まりを担当した。
上海市公安局:国民政府・上海特別市の下に置かれた警察機構である。武装警察隊を保有し、租界境界線の警備および市民の治安維持を担当した。
憲兵隊:軍内の軍紀取締りに加え、政治犯の摘発や要人警護を担当した。