VVとMGの進級

1929年5月上海の紅江マリア女学校。
1年生の学期が終わりに近づいていたが、VV(薇薇)MG(マリゴールド)は、
幸福商会と歌手の仕事が忙しく、ほとんど学校に行けていなかった。

2人を心配して、英語、国語(中文)、数学、家政と全ての科目の先生が順番に幸福商会に訪ねてくる。
VVとMGは学校の先生が自分たちの様子を見に来てくれてると思い、
「心配して見に来てくれるなんて、本当にありがたいよね」と話していた。

まずやってきたのは、厳しいことで有名な英語の先生だった。
お茶を受け取りつつ、さりげなく試すように英語で問いかける。
「最近、英語の文学作品などを読むお時間はあって?」
2人は流暢な英語で答えた。
VV「最近はアメリカの実用書が多くて……」
MG「私は先週、ロンドンから届いた新作の戯曲本を一気に読みましたわ。とても興味深い内容でした」
あまりに自然な英会話と見識の高さに、先生は圧倒されて帰っていった。

次に来た国語(中文)の先生は、中国の古典文学や最新の流行歌の歌詞について話した。
VVたちの表現力の豊かさと、美しい言葉遣いに、先生は思わず感心のため息を漏らす。
「素晴らしい……ネイティブ以上の見識だ」

家政の先生が訪れた際には、二人が差し出した自家製のお菓子と、洗練されたお茶の淹れ方に驚嘆した。
「立ち振る舞いも、おもてなしも完璧ですわ。私が教えることは何もありません……」

最後にやってきた数学の先生は、事務所のデスクに広げられた帳簿を見て、目を丸くした。
「この大量の帳簿を、為替や減価償却、経済予測まで……全て二人でやっているのですか?」
「はい。商会の経理は自分たちでやってますので」
数学の先生は、学校で教えている方程式など遥かに超越した数字を前に、「参りました」と頭を下げるばかりだった。

数日後、VVとMGは、校長先生から突然学校へ呼び出された。

二人は校長室の前で顔を見合わせ、声をひそめた。
VV「やっぱり……出席日数が足りなくて退学処分かしら」
MG「覚悟を決めましょう。今までお世話になったお礼だけでも言わなくちゃ」

意を決して校長室のドアを叩き、室内に入る。
重厚なデスクの奥から、校長先生が穏やかな微笑みを向けていた。
校長「よく来ましたね、二人とも」
VV・MG「校長先生、今までお世話になりました!」
校長「何を言っているのですか。進級おめでとうございます」
VV・MG「……えっ!?」
顔を見合わせる二人。

校長先生は満足そうに頷いた。
「あなたたちは学校に来られずとも、現場で立派に課題をこなし、自ら学び続けてきました。
先日、先生方が効果測定に伺いましたが、二人ともすべての科目で大変素晴らしい評価でした。
よって、ここに2年生への進級を認めます」

言葉を失うVVとMG。
二人は深々と頭を下げ、狐につままれたような顔で校長室を後にした。

パタンとドアが閉まると、控えていた教頭先生が感極まった様子で校長に話しかけた。
「本当に素晴らしい生徒たちですね。
自立し、実践の中で教養を磨いている……まさに我が校の誇りです」
校長先生は窓の外を、元気に肩を並べて帰っていく二人の背中を見つめながら、優しく微笑んだ。
「ええ、本当に。彼女たちの将来が、今から楽しみでなりませんね」

【2026-08-08/260419】