1928年上海市、紅江区幸福路。
最近、レオンはいつもこのカフェ“幸福1号店”にいる。
MG(マリゴールド)が不思議そうに尋ねた。
MG「レオンはなんでいつもここにいるの?」
レオン「ここは情報が集まりやすい。どこの国にも偏らず動けるからな」
フリーのエージェントであるレオンにとって、幸福1号店は、“中立地帯”のような場所になっていた。
ある日、VV(薇薇)が不在の時間帯に、目の見えないスマートな男性が店を訪れた。
彼は数週間前から、このカフェに来るようになっていた。迷いなくカウンターへ向かう。
男「今日は、あの中国系の女の子はいないのか?」
ナディア「今日は不在です。でも、どうしてVVがいないって分かったんですか?」
男「目が見えないと、他の感覚が鋭くなるんだ」
淡々とした声だが、どこか柔らかい。
ナディア「今日は何を買いますか?」
男「そうだな……幸福1号の苺、レモン、マンゴー味。Joy55号サバ味と、Joy55号バナナ味も」
ナディア「全部覚えてるんですか?」
MG「ていうか、それ全部食べるの?」
店の奥で新聞を読んでいたレオンは、男の気配にわずかに目を細めた。
(……同業者だな)
この頃、VVは幸福商会の立ち上げで忙しく、店はMG、ナディアとマナが切り盛りしていた。
品数を増やすため、ドイツパンや菓子は近くの菓子店ヘイゼルナットのエリサが納品してくれている。
幸福1号ケーキなどのメニューはVV、MG、ナディア、マナ、エリサが考案したものだが、実際に作っているのは、VVや紅烈が世話をしている孤児たちだった。
数日後、次に男が店を訪れたとき、今度はVVがいた。
男「久しぶりだな」
VV「はい。前に会ってから、なかなか会えませんでしたね」
男「実は、前から君をずっと探していたんだ」
VV「私を?私は店にいないときは商会にいますよ。いつでも来てください」
男「いや……その時からじゃない。もっと昔から、俺は君を知っている。君はずいぶん成長して、美しくなった」
VVは驚き、男の目を見つめた。
VV「あなたは目が……昔は見えていたの?」
男「ああ。でも今でも美しいと“感じる”ことはできる」
MG「VVだけが美しいと思ってるのね」
男は微笑んだ。
男「VV、君が小さい頃、上海ブラックウェル家に
“ガン”という少年がいたのを覚えているか?」
VV「あなたは……あの私のボディガードだったガン?」
男「そう。俺だ」
VVは息を呑む。
VV「ガン……あなたは手りゅう弾の爆発に巻き込まれて、
その後、二度と姿を見せなかった」
ガン「あの時に目をやられてな。それでアメリカの本家に呼び戻された」
ガンはふっと笑う。
ガン「君はあの時、俺に“将来結婚しようね”って言ってたんだぜ」
VV「覚えてるわ。私は8歳だった。でも、その約束は今も有効よ」
ガン・ブラックは上海ブラックウェル家を守って怪我をした後、アメリカ本家に戻され、軍人家系のコネで米軍諜報部に派遣された。彼は耳が異常に良く、複数言語を聞き分けられるため盗聴を担当。左目は義眼、右目もほとんど見えないが、音の方向に手を伸ばす感覚で銃を撃てる。
ガン「実は、俺が上海に来たのには、訳がある。今日まで様子を見ていたんだが、どうも切羽詰まってきたようだ。ニューヨークの本家ブラックウェルからの刺客が上海に到着したらしい。本家は昨年の大恐慌で破産寸前だ。そして分家である上海ブラックウェルの財産を狙っている」
VVの顔色が変わる。
ガン「ニューヨークの当主タウシュ・ブラックウェルは上海ブラックウェル家の三人――アッシュ三世(VVの父)、アッシュ四世(VVの兄弟)、そして君を殺そうとしている」
VV「ニューヨークのパパは……大丈夫なの?」
ガン「三世はニューヨークで君の母と暮らしている。
まだ自分が危険だとは知らないと思う。
……まず上海を片付けて、急いでニューヨークに行こう」
VVはガンをレオンに引き合わせた。ガンはレオンに刺客の居場所を伝える。
ガン「20人の刺客が5つのアジトに分散している。どれくらいで片付ける?」
レオン「3時間だな」
ガン「ブラックウェルの刺客だぞ?3時間で…」
レオン「ただの私兵だ。俺の相手じゃない」
レオンは少年探偵団の子どもたち30人を集め、手榴弾(催眠ガス入り)を渡す。
ガン「子供を使うのか?」
レオン「計画が完璧なら、子供でもできる」
子どもたちは遊んでいるふりをして敵の帰りを待ち、VVの合図の花火で敵のアジトに手りゅう弾を投げ込む。
手榴弾は爆発せず、催眠ガスが広がり、紅烈が眠った刺客を回収していく。
逃げ出した刺客はガンが走り寄り瞬時に取り押さえた。
レオン「暗闇でも、さすがだな」
ガン「俺は暗闇の方が得意だ」
20人を捕らえた後、レオンは紅烈に「しばらく、幸福食堂の飯でも食わせておけ。暇そうにしてたら皿洗いでもさせろ」
VV、MG、レオンとガンは、レオンの“影のルート”でニューヨークへ向かう。
ナディアの高速船で上海→アラスカ、米軍の飛行艇でシアトル、高速鉄道を乗り継ぎ、計10日でニューヨークへ到着。
ニューヨークに到着後、アッシュ三世と朱韺が住むアパートに急行し、二人を保護。VV「パパ、ママ、無事ね」アッシュ三世「何かあったのか?」VV「じゃ、私たち行くわね。白執事は残ってパパとママをよろしく」朱韺「気をつけてね」
VVとレオン、ガンたちはニューヨーク本家を急襲する。裏手から侵入してタウシュの部屋まで直行。途中の護衛は当身で気絶させる。
タウシュ「き、君たちは…」
VV「観念しなさい!」
タウシュ「君を傷つけるつもりはなかったんだ!君を誘拐して結婚しようと……」
VV「気色悪っ。私には結婚を約束した人がいるのよ」
MG「そんな人いた?」ガンは無言。
騒動を聞きつけてタウシュの部屋に来たタウシュの妹ティアナはVVの話を聞いて兄を叱り飛ばす。
「私はお兄さまを損ないました!」
VVは本家の清算を宣言し、従業員救済のための提案をする。
VV「幸福2号店をニューヨークに出すのよ!」
清算作業は遅れて船で到着したアッシュ四世とマナが担当。
Monroe(モンロー)手回し計算機を使って大量の計算をこなしていく。
四世「清算後も資産が少し残せる。後はティアナに任せよう」

ティアナが幸福2号店を経営し、事業は軌道に乗る。
元当主タウシュは幸福2号店で清掃員として働き始める。
タウシュ「俺もいつか……自分の店を……見てろよ……」
事件後、VVが上海に帰り際、ガンは静かに言った。
ガン「俺はブラックウェルを辞める。そして陰でいることもやめる。だからもう、ブラックじゃない。これからはブルーを名乗るよ。落ち着いたら俺も上海に行く」
VV「待ってるわ」
VVはガンの頬にキスをした。ガンが赤くなる。
MGが横から茶々を入れる。
MG「赤くなった。ブルーじゃなくてレッドだわ」
【s00022】