紅蓮隊の結成

1928年上海
紅江川にかかる橋を、VV(薇薇)MG(マリゴールド)が並んで歩く。
川沿いには、貧民街の家屋がぎっしりと連なっている。
MG「どうしたの?」
VV「汚いわね」
MG「そう。それにひどい臭い」
VVはしばらく川岸を見下ろしたまま動かない。
MG「何かできそう?」
VV「いまはまだ無理ね。もう少し考えてみるわ」

不良グループのリーダー・紅烈は、紅江区の貧民街の子供たちを集めて面倒を見ているがいつも金が足りないで困っている。ある日、知り合いの青幣(紅江区のヤクザ)の男が紅列に声をかける。
男「いい儲け話があるんだ」
紅烈はごくりと唾を飲み込む。

その日、紅烈は自分が世話をしている子どもを連れて病院を訪れた。
女医・桐谷美桜は子どもの診察を淡々とこなす。
紅烈は、密かにこの女医に想いを寄せているが、自分とは住む世界が違うと、近づくことすら諦めている。
実は紅烈の不良グループの少年たちは、ケガをするたびに病院へ行くため、全員が美桜のファンである。

紅烈は診察を受ける子供の背後で、禁断症状で汗をにじませていた。
美桜「風邪ね。心配いらないわ。薬を飲んで、よく休むこと」
紅烈「ありがとう。いつもすまないな。治療費も遅れているのに」
美桜「ここはミッション系の病院よ。気にしないで」
子どもを抱き上げようとした紅烈の腕に、注射痕がのぞく。

美桜「……紅烈」
紅烈は慌てて腕を隠す。
紅烈「じゃあ、ありがとう。世話になったな」
美桜「その腕……あなた、まさか麻薬を?」
紅烈は答えない。
次の瞬間、美桜は紅烈を平手打ちした。驚く看護師、子供、紅烈。

美桜「麻薬がどれだけ危険か分かってるの? あなた、いつか死んじゃうわよ」
紅烈「あんたは俺のことなんか関係ないだろう」
美桜「関係ないわけないでしょ。あなたが死んだら、みんながどれだけ悲しむか……みんなを見捨てる気なの?」
紅烈「俺は大丈夫だよ」
再び、美桜の平手が飛ぶ。
紅烈「何だよ」
美桜「言っても聞かないから殴るのよ。子どもだって話せば分かる。でもあなたは言っても分からないみたい。もう一度言うわ――あなたいつか死ぬわよ」

風邪を引いた子供を家に送り、紅烈は夜になって不良グループのアジトに戻った。
少年A「兄貴、お帰り」
紅烈は無言で座り込む。
少年B「兄貴、どうした?」
紅烈は机の引き出しから小箱を取り出す。
中には注射器と白い粉。
しばらく見つめたあと、それらを床に叩きつけた。
「やっとやめる気になったみたいね」

女の声に振り向くと、扉の陰からVVとMGが現れる。
紅烈「……VVじゃねえか」
VV「紅烈、最近見ないと思ったら…」
MGは珍しそうにアジトを見回す。
VV「麻薬を売っていたのが、あんただったなんてね」
紅烈「うるせえ。お前に何が分かる」
VV「分からないよ。今のあんたの気持ちなんて」
紅烈「くそっ……」

VV「紅烈。あんた、この貧民街の子どもたちを育てるために金を稼いでたんでしょ?」
紅烈「金なんかいくらあっても足りねえんだよ。ガキの頃からずっと一緒だ。こいつらとここを抜け出すには、金が要るんだよ」
VV「でも、あんたも死ぬわよ。麻薬の売人はみんな、いずれ自分も手を出して死んじゃう」
紅烈「俺は違う」
VV「違わない。みんな心配してる。……美桜先生だって。多分ね」

紅烈「美桜先生も……?」
動揺する紅烈。
立ち上がろうとした少年たちを、MGが手で制す。
MG「外野は静かになさい。今いいシーンなんだから」

VV「もう麻薬を扱うのはやめることね」
紅烈「じゃあどうやって稼げってんだ。俺たちだって生きるには金が必要なんだ」
VV「麻薬じゃなくて、私に“情報”を売りなさい」
紅烈「情報?」
MG「ウチの新聞社にネタを流すってこと?」
MGは地域の小さな新聞社を持っている。
VV「それもアリ。でも儲かる情報なら何でも買うよ。麻薬みたいに先のない仕事じゃ、生き残れない。これからの時代を生きるための燃料は“情報”よ」
紅烈「考えてみるよ」

紅烈のアジトからの帰り道。
MG「彼らを信じていいの?」
VV「私は表情と態度で、相手が信用できるかどうかは分かる。嘘つきでも、ちゃらんぽらんでも、役に立つなら気にしない。だから不良は信じられる。
信じられないのは詐欺師と狂信者。本物の詐欺師は嘘をついてる自覚がないし、狂信者は自分の行動が正しいと信じてる。だから見破るのも難しいし、予測もできない。だからそういう奴らは信じないし、許せない」

この後、紅烈は自分たちの集団を「紅蓮隊」と改め、この紅蓮隊はやがて産業スパイ組織に育っていく。

何か月かが過ぎて、紅蓮隊とVV商会は、近隣住民と協力して、急ごしらえではあるが、川辺に公園と集合住宅を整備した。
VV「やったね、紅烈」
紅烈「まだまだだ。こんな住宅にも住めない人が、まだたくさんいる」
MG「あなたって、実はできる人だったのね」
紅烈はちょっと顔を赤くして「俺は、子供たちと遊んでくる」と橋から川原に下りて行った。

VVとMGは紅江橋から川原の公園を見下ろす。
紅烈が子どもたちと遊んでいるのが見える。
VV「今日は病院、休みみたいね」
MG「え、なんで?」
VV「あそこに美桜先生がいるもの」
少し離れた場所に立つ美桜に、VVはそっと目を向ける。
MG「ほんとだ」
川辺では、紅烈が子どもたちと笑い合う声が響いていた。

【s00009】