1928年、上海・紅江区ブラックウェル家。
上海ブラックウェル家四代目、アッシュ・ブラックウェル四世は16歳。VV(薇薇)の同い年の異母兄弟。
四世はいつも夜中まで仕事をしながらコーヒーばかり飲んでいるため、皆から「咖啡(カーフェイ)」と呼ばれていた。
祖父である二世が引退し、父である三世がニューヨークへ去った今、カーフェイがブラックウェル家の事実上の当主となっている。
VVは学業の傍ら「幸福商会」を立ち上げた。 MG(マリゴールド)は同級生であり、今では仕事の相棒でもある。
幸福商会の商談帰り、日が暮れかけた頃。 VVとMGは人力車で幸福商会へ戻る途中だった。
VV「すっかり遅くなっちゃったわね」
MG「あなた、気を付けなさいよ。幸福商会の仕事ではボディーガードもいないじゃない? レオンだっていつも近くにいるわけじゃないし、紅烈の舎弟じゃ、あなたを守りきれないわ」
VV「考えてはいるんだけど……ちょっと待ってて」
その時、人力車の前に一台の自動車が横付けされた。
MG「考えてる余裕はなさそうよ」
VV「囲まれたね」 後ろにも一台。
MG「だから言ってるのよ」
男たちが車から降りてくる。
VV「どうやら、すぐ殺す気はないみたい。少し様子を見ましょう」
MG「分かるの?」
VV「あの後ろの小柄な男、見覚えがある。悪いだけの人じゃない」
VV(目配せ:あなたの拳銃は見つからないでしょ)
MG(スカートの中まで見なければね)
車から男たちが降りて来る。車夫は引き倒され、二人は人力車から降りる。
男1「そのカバンは?」
VV「書類カバンよ」
男1が開ける。「……本当に書類だけだな」
VV「持っていってもいいでしょ」
男1「ダメだ。預かる」
男2「そっちの紙袋は?」
MG「今日のランチの残り」
男2「ちっ、ゴミか。捨てていけ」
VVとMGは車に押し込まれ連れ去られる。
残された紙袋が開き、中から伝書鳩が飛び立った。
同じ頃、カーフェイは工場視察の帰り道。 カーフェイは自動車の窓から外を見ながら言う。
「道が違うようだな」
運転手は無言。
黒執事「少々、寄っていただきたい所がありまして」
カーフェイ「……そうか」
(普段同行しない黒執事が秘書を休ませてまで付いてきた理由はこれか。俺を狙うとすると、日本軍かドイツ軍、あるいはニューヨーク本家か…)
VVの伝書鳩が幸福商会へ戻り、白執事が気づいてレオンに電話する。
白執事「社長の戻りが遅いと思ったら伝書鳩が……社長は誘拐されたかもしれません」
レオン「メッセージは?」
白執事「SOSとだけ」
レオン「ちっ、素人が」
レオンは捜索を開始。
人力車の車夫は腕を折られて病院にいた。
「知らない男たちで、何も……」
レオン「証拠を残さないように見えても、目撃者を殺さない時点で素人だな」
レオンは聞き込みから情報を掴み、青弊の幹部にたどりつく。
レオン「最近、怪しい動きをしてる奴がいるだろう」
幹部は首を振るが、レオンは言う。
「誰もブラックウェルに手を出さないのは、ブラックウェルが“焼けた鉄”だからだ。チンパンは知らずに触ろうとしてる。青弊も無事じゃ済まないぞ」
幹部「……チンパンだ。若い連中を使って何か企んでると聞いた」
レオンはチンパンの身内を捕らえ、行き先を吐かせる。
チンパンの目的地は上海北方80キロのブラックウェル別荘。
レオンは日本軍の飛行場へ。整備士に日本軍の階級章を見せ、
「陸軍の霧島だ。緊急事態だ。この軽飛行機を借りていくぞ。」
整備士1「分かりました!」
飛び立つ軽飛行機。
整備士2「お前また霧島少尉に飛行機貸したのか。あれ、もう帰ってこないぞ」
カーフェイが別荘に到着すると、黒執事と男たちがカーフェイを取り囲む。 しかし男たちはそこから何も行動しない。
(まだ役者が揃っていないようだな)
カーフェイは居間でくつろぎながら待つことにした。
やや遅れて、チンパンがVVとMGを連れて入ってくる。
黒執事「お嬢様!」
チンパン「待たせたな」
黒執事「チンパンさん、これは……お嬢様は今回の件に関係ないと……」
チンパン「うるせえ。このお嬢さんが“鍵”なんだよ」
黒執事「お許しください……」
カーフェイ「どうやら黒幕はVVじゃなかったようだな」
VV「冗談でしょ、何で私が」
カーフェイ「ところで、俺たちに大切な用があるんじゃないのか」
チンパン「若様は、話が早い。俺たちはブラックウェルの財宝を探してる。 この別荘の大金庫にあるらしいが、“鍵”が二つ必要だと言われた。 その鍵を知ってるのが、この二人だとよ」
VV「鍵?」
チンパン「キーワードさ。ダイヤルにアルファベットが彫ってある」
黒執事「二代目様が、成人されたら“二人で力を合わせて財産を守れ”と……」
VV「私はそんな財宝いらないけど」
カーフェイ「だがブラックウェルの財宝だ。VV、お前だって無関係とは言えない。ところで、黒執事。今回の事は誰の差しがねだ?」
チンパン「誰の差しがねだとか、そんなんは、どうでもいい。俺たちはおこぼれが欲しいだけだ。 金銀宝石だけ頂ければ、あんたたちには無事にお帰りいただくさ」
MG「見え透いてるわ」
チンパン「その代わり、お宝が手に入らなきゃ、命はないと思え」
MG「どっちみちでしょ」
VV「あー、めんどうくさいな。」
思い出すように「そういえばおじいさんが言ってたわ。“お前が守るのは家族(family)だ”って。これがカギだ、絶対に忘れるなって言ってたわ」
カーフェイ「俺が二世から聞いたのは“大切なのは血(blood)”だったが」
チンパン「聞いたな、鍵師。回せ!」
金庫は開いた。 だが中にあったのは書類の山。
チンパン「なんだこりゃ!」
カーフェイ「ここにあったのか。屋敷を探しても、見つからなかったから困ってた。君たち。偶然とはいえ、恩に着るよ」
MG「それ何?」
VVは書類を見ながら「工場の権利書、鉱山の採掘権、港の利権……重要な書類ばかりね」
チンパン「ちくしょう!こうなったら、やっちまえ!」
銃を構える一味。
黒執事「お嬢様を傷つけてはなりません!」
VVの前に飛び出す。
MG「私は?」
カーフェイ「俺はどうでもいいのか」
その時、ドアが開きレオンが飛び込む。
流れるような動きで一味を制圧。
チンパンは外へ逃げ去る。
レオン「どいつも素人だが、あの猿の逃げ足だけはプロ級だな」
レオン「外にはまだ数十人いる。ここで戦うのは無理だ。逃げるぞ」
カーフェイは金庫のダイヤルを変え、扉を閉める。
VV、MG、カーフェイ、レオン、黒執事の5人は裏の車に乗り込み、闇の中を走り出した。
VV「どっちへ?」
レオン「国道へ。一本道だ」
MG「すぐバレるじゃない」
レオン「ライトは付けないから、敵の銃は当たらない」
VV「よく運転できるわね」
レオン「満州の夜に比べれば明るい」
走り出した車の後ろをチンパン一味の車が数台で追ってくる。
レオン「カーフェイ、運転代われ。できるだろう」
カーフェイ「まあな」
レオンは屋根から身を乗り出し、追手のライトを狙撃していく。
銃声のたび、後方の車がクラッシュしていった。
40キロほど走ったところでガス欠。
レオン「歩くぞ」
VV「歩くの?」
レオン「お前は40キロ走れないだろ。歩くんだ」
車から降りるとき、カーフェイは別荘から持ち出した鷹の鳥籠を抱えていた。
レオン「伝令か」
カーフェイ「そうだ」
鷹を放つカーフェイ。「俺たちが無事だと知らせてやろう」
40キロを歩き、夜が明け、次の夕暮れ頃に人里が見えた。
農民のトラックに乗せてもらい、荷台でカーフェイがVVに言う。
カーフェイ「世話になった。俺一人では死んでたかもしれない」
VV「私は世話なんかしてないわ。偶然一緒に誘拐されただけよ」
カーフェイ「家には帰ってこないのか?」
VV「私と家とは、やり方が違いすぎる。私は family を大切にするけど、あなたは blood を大切にする。 私が守りたいのは仲間。あなたが守りたいのはブラックウェル家よ」
VV「あなたは、自分一人の力だけで何でもやろうとする。だから、あなたの命令がないと誰も動かない」
カーフェイ「俺は強い。俺の命令ひとつで敵を叩き潰せる」
VV「でも、あなたは一人しかいない。あなたが死んだ後、その力を受け継ぐのは、やはり一人だけなのかしら?」
カーフェイ「力を分ければ弱くなるだけだ」
VV「私たちは弱いわ。だから横につながるの。あなたは強いけど、縦につながる一本の線。切れたら終わりよ」
カーフェイ「ブラックウェル家は family だ。強い者が引っ張らなきゃ成り立たない。 富は上から下に流れる。俺が富を集めて流すんだ」
VV「私は違うと思う。お金は社会を巡る血よ。生かして使わなきゃ流れない」
MG「まるで、カーフェイが family を大切にしてて、VVが blood を大切にしてるみたいね」
VV「いくら家が富んでも、犠牲の上に成り立つの意味がない。苦力たちはどうなったの?」
カーフェイ「少し荷を軽くしてやった。働けばいつか自由になれる程度にはな」
VV「本当? 私にはできなかったことだわ」
カーフェイ「俺もここまでが限界だ。金をばらまくことわけにはいかない」
VV「ありがとう」
カーフェイ「礼を言われることじゃない。お前にはお前のやり方がある。 ……俺はお前の自由さが羨ましい」
トラックは上海近くに到着。 気づけばレオンの姿はなかった。
MG「もう大丈夫と思ったんでしょ」
カーフェイ「俺も帰る。じゃあな、元気でいろよ」
農民に礼を渡すカーフェイ。黒執事も肩を落として降りる。
VV「黒執事、あんたはこっちでしょ」
黒執事「私もですか?」
VV「当たり前でしょ。あなたには幸福商会で働いてもらうわ」
VVは笑う。
黒執事「お嬢様〜!」
MG「また一人増えたわね」
VV「白執事も待ってるよ。明日から働いてもらうからね」
カーフェイ「じゃあな、俺は家に帰る」
カーフェイは軽く手を振って歩き出す。VV・MG・黒執事の三人も、カーフェイとは別の方向へ歩き出した。
【S00010・S00011】