1928年上海紅江区幸福路
幸福1号店に、久しぶりにVV(薇薇)MG(マリゴールド)マナナディアの4人がそろっていた。店の片隅にはレオンがいる。
VV「みんな、ひどいわ。どうして私の大切な“幸福1号マンゴー味”を食べちゃうの。人間の心をなくしたの?」
マナ「でも、バナナ味もレモン味もありますよ」
VV「バナナもレモンも死ぬほど食べたのよ!でもマンゴーはまだ飽きるほど食べてないの!」
MG「売り物がなくなるくらい食べてたからね」
VV「あなたたち、大切な何かを失ってない?友情とか、人間愛とか」
MG「VVの食欲の前には全部消える」
マナ「そういえば駅前で、“大事な何かをなくした”って呟いてる男の人がいるって噂、聞きました?」

4人が駅前に向かうと、噂の男が道端に座り込んでいた。
男「……あれがどこにあるか知らないか? 大切なものなんだ。確かにあったはずなのに……」
VV「普通の人、というよりイケメンね。人を騙すタイプじゃなさそう。」

VV男に声をかける「ねえ、あなたの探しているものって何?」
男「ドアだ。もう一つの上海につながる“緑色のドア”があったんだ。それが消えた」
そこへレオンが現れる。
レオン「そいつの言ってることは本当だ。上海が“魔都”と呼ばれる理由は、派手な都会だからじゃない。もっと別の秘密がある」

レオンは4人と男を連れ、大通りに面した映画館の地下室へ案内した。
何もない壁をツルハシで叩くと、崩れた壁の奥から緑色のドアが姿を現す。
レオン「緑のドアは一つじゃない。町中にあるが、全部隠されている」
MG「もし全部がつながっていたら……そこは巨大な――」
レオン「そうだ。上海の地下には、もう一つの“別の上海”がある」
VV「誰が、何の目的でそんなものを……?」

ドアを開けて地下道に入ると、男は急に正気を取り戻した。
男はレオンを見て「……お前は、レオン」
レオン「やっと正気に戻ったな、土竜(もぐら)」
土竜「こっちだ。俺のアジトに案内する。レオンの仲間なら安心だ」
VV「仲間じゃないよ。友達だよ」
レオン「こいつは地下で生まれ育ったから、外に出ると目が見えなくなるんだ」

土竜「敵に追われてるうちに外へ迷い出て、帰れなくなった。誰かが俺の知っている緑のドアを塞いだらしい。外では目が見えないからパニックになってたんだ」
ナディア「意外と深いのね、この街」
土竜「地下30層あると言われてるが……嘘だ。そんなに深くない」
マナ「ですよね。いくらなんでも――」
土竜「上海は地盤が弱い。せいぜい10層だ」
MG「十分深いわ」

途中、日本兵や米兵とすれ違った。 兵士たちは帽子のつばに手を添え、互いに軽く挨拶を交わす。
VV「今のは米兵ね。さっきのは日本兵」
土竜「ここは天下の往来だ。何も不思議じゃない」
レオン「言っただろう、地下はもう一つの街なんだ」
薄暗い電灯がところどころに灯り、立ち飲み屋や小さな商店まで並んでいる。 地上とは違う、しかし確かに“生活の気配”があった。

土竜が小さな道の突き当りにあるドアを開けると、仲間たちが駆け寄ってきた。
仲間「リーダー、無事だったんですね!」
MG「リーダーだったんだ」
女「土竜が3日間も戻らないから……心配したのよ」
土竜「すまん。敵に追われてるうちに外へ出てしまった」
VV「敵って誰?」
土竜「建設局だ。先月の落盤事故以来、俺たち地下組織を目の敵にしてる」
女「事故は私たちのせいじゃないのに、建設局は地下道を土で埋めて回っているの」

男たち「多くの地下道は、租界の規則ができる前からあったんだ」
VV「そんなに昔からあったのなら、今すぐ危険なわけでもないはずよ。建設局は、本当に“安全のため”だけで潰そうとしてるの?他に理由があるんじゃない?」
レオン「建設局に乗り込むか」
土竜「案内する。まだ生きてる地下道がある」

緑のドアを抜けると、建設局の地下室。
書棚の裏に隠された秘密の入口だった。
土竜「都市計画室は2階だ」
薄暗い廊下を上がり、2階の部屋を覗く。
上司「奴らはまだ潰せないのか。計画の邪魔だ」
部下「総員で当たっています」
上司「私も行く」
2人が出ていくと、土竜たちは残された資料に目を通した。
VV「……地下再開発計画?」

マナ「地下に鉄道や道路を通す大規模計画ですね」
MG「成績稼ぎ?」
VV「いや、財閥が絡んでる。どこかから金が出てるはず」
土竜「資料を見ただけで、そんなことが分かるのか?」
VV「そういう職業だから」
マナ「……このサイン、ブラックウェルです。カーフェイが関与しています」
VV「ほんとだ」
マナ「この計画、止めなければ。私、カーフェイのところへ行ってきます」

ブラックウェル家を訪れたマナを、カーフェイの母・マリアが迎える。
マリアはカーフェイの母でありながら、召使の時からの生活態度を変えようとしない。
マリア「マナ様、よくいらっしゃいました」
マナ「お母様、カーフェイはいらして?」
マリア「自室におります」
マナはマリアに微笑み中に入り、次に決意を秘めた表情で部屋のドアをノックした。

マナ「カーフェイ、いる?」
カーフェイ「マナ? どうしたんだ」
マナ「この計画のことで話があります」
計画書を差し出す。
マナ「私は聞かされていませんでした」
カーフェイ「いや、驚かせようと思って……」
マナ「看過できません。どうしてこんな計画に?」
カーフェイ「そんなに怒ることか?」
マナ「気づいていないんですか?」
カーフェイ「??」

マナ「原価計算が間違っています。この金額でできるはずがありません」
カーフェイ「まさか!」
マナ「こんなずさんな計画に乗るなんて……こんなことでは、私、ブラックウェルの嫁には来られませんよ」
カーフェイ「け、結婚……してくれるのか」
マナ「これからは主要な計画にはすべて目を通させていただきます」

ブラックウェルは計画から撤退し、地下再開発計画は白紙に。
建設局の担当者2名は左遷となった。

埋められた地下通路を、日本軍とアメリカ軍の兵士たちが掘り返している。
日本兵1「誰だよ、こんな天下の往来を勝手に塞いだのは」
米兵1「まったくだ。この道が塞がれちゃ、俺たち諜報部は仕事にならん」
日本兵2「お互い苦労するな」
米兵2「今日の作業が終わったら、一杯やるか」
日本兵3「いいな」
日本兵たちと米兵たちは笑いながら作業を続けた。

【s00089】