1928年上海
VV(薇薇)MG(マリゴールド)はすでにブラックウェル家の主要ビジネスを任されていた。女学生でありながら、二人は仕立ての良いスーツを着こなし、堂々と商談の席に座る。幼い頃から祖父アッシュ二世と父アッシュ三世に叩き込まれた商才は、すでに大人顔負けだった。

父の代理として視察に出ることも珍しくなかった。
その中で、二人は次々と新しい事業を成功させていく。

VVが最初に任された大仕事は、上海初となる屋内型商店街――“ショッピングアーケード”の企画だった。
雨の日でも買い物ができる欧米式の施設は当時としては革新的で、VVは動線設計からテナント選定、宣伝戦略までを一手に担った。
MGは財務と契約交渉を担当し、二人のコンビは大成功を収める。
開業初日、アーケードは押し寄せる客で身動きが取れないほどだった。

次にVVが挑んだのは、アメリカで流行し始めていた“通信販売”の上海導入。
カタログを印刷し、郵便で注文を受け付け、商品を発送する――当時の上海では前例がない。
VV「遠くの村に住む人でも、街と同じ買い物ができるようにしたいの」
MGは物流網の整備を担当し、二人は上海の商習慣を変える新しい仕組みを作り上げた。

父アッシュ三世が率いるブラックウェル家の船団は、上海でも有数の規模を誇った。
VVはその積載効率改善を任され、航路ごとの需要予測や積み荷の配置を最適化し、運搬コストを大幅に削減した。
船長たちは口を揃えて言った。
「若いのに、あの子は海のことをよく分かっている」

さらにVVは、欧米人居留区向けの高級雑貨店をプロデュース。
内装デザインから仕入れルートの確保、ブランドイメージの構築まで、すべてを指揮した。
MG「あなた、本当に高校生なの?」
VV「仕事は年齢じゃないわ」
二人は笑い合いながら、次々と成果を上げていった。

ところが、ある日、VVとMGはブラックウェル家の下請けである製靴工場を視察に出かけ、そこで目にしたのは、痩せ細り、顔色の悪い労働者たち。
中には子供の姿もあった。
VV「……あの人たちは?」
工場主「クーリーですよ。安いがよく働きます。体を壊したら追い出しますがね」
VV「最近、街に増えた浮浪者は……」
工場主「私の知ったことではありません」

VVは言葉を失った。
利益を貧困層に回し、労働環境を改善しようと努力してきた自分の仕事が、逆に搾取の片棒を担いでいたのだ。
MGは怒りで震えていた。
「ひどいわ……子供からも搾取するなんて」

家に戻ったVVは、祖父アッシュ二世の部屋へ向かった。
VV「お祖父さま、あの工場の労働契約はひどいです。あれは搾取です」
アッシュ二世「商売は力比べだ。弱い者が負ける。弱者は生きる価値が無い」

VVは息を呑んだ。
次に父アッシュ三世(バード)の部屋へ。
アッシュ三世「ビジネスは厳しいものさ。お祖父さんからそう習っただろう?」

居間にいた異母兄弟アッシュ四世(カーフェイ)も口を挟む。
「彼らも借金のために契約したのだ。違法ではない」

VVは静かに立ち上がった。二人で廊下に出るとVVはMGに
「……私はもう、この家のやり方には耐えられない。家を出るわ」
MG「いつ?」
VV「今夜よ」

MGは少し考えて言った。
「家を出るにしても、白執事には声をかけて。後で手伝ってもらうこともあるし」
VV「そうね」
MG「その前に、ご飯は食べていきましょう。今日のディナー、おいしそうだったわよ」
VV「……怒ったらお腹空いちゃったし、そうする」
MG「住む場所は?」
VV「とりあえず私の事務所。水もガスも出るから」

そして広い廊下で二人はしばらく黙った。
屋敷の静けさが、これが“最後の夜”であることを静かに告げていた。

その夜、VVはブラックウェル家の門を出た。
港の風が湿った空気を運んでくる。
VVは振り返らず歩き出す。
MGも静かにブラックウェル家の門を出て、足を早めてVVの横に並び、一緒に歩きだした。

その夜は学校の寮に泊まり、翌朝、二人は港の見える古い建物に入った。
VVは事務所の窓を開けて、深く息を吸い、MGに向き直る。
VV 「父からもらった船は全部置いて来たわ。あれは“ブラックウェル家の力”の象徴だから。持って出れば、結局私はあの家の娘で終わる。 だから、今の私は一文無しよ。それでも私についてくる?」

MGは一瞬だけ目を細め、すぐに笑う。
MG 「いいじゃない。 私はお金であなたの相棒になったわけじゃないもの」
VVは少し肩をすくめる。
VV 「まあ、完全にゼロってわけでもないけどね。執事の白が後から来てくれるって言うし、彼に任せれていれば、学校に通いながらでも商会の通常業務は任せられる。でも、とりあえずの次の手を考えなくちゃね」
MGは少しだけ言いにくそうに口を開く。

MG 「実はね……私もあなたが持ってたほどじゃないけど、小さな船を持ってるの。父の債権者にも取られなかった、私の船」
VVの目が輝く。
VV 「船?いいわね。遠くまで行けるの? もし日本くらいまで行けるなら、ちょっと稼げるかも。どこにあるの?」
MGは港の奥を指さす。
MG 「あそこ。クレーンで蒸気機関車を降ろしてるのが見える?イギリスから機関車を運ぶ仕事を頼まれてたのよ」
VVは目を見開く。

VV「あれ? あれがあなたの船?小ぶりだけど、アメリカまで一往復すれば一儲けできるわね…… ――そうだ、いいこと思いついた!」
MGは呆れたように笑う。
MG 「VV、あなた、すぐひらめくのね。でも、そういうところ……期待してるわ」
VVは胸を張って言う。
VV 「任せといて!」

【s00007】