1928年上海──ブラックウェル家
アッシュ四世(カーフェイ)は書斎の大きな机に腰掛け、静かに書類を閉じた。
「最近、親父(アッシュ三世=バード)には敵が多い。事業にも支障が出ている……
親父には消えてもらわなくてはならないな。──黒執事、手配してくれ」
「承知しました」
黒執事は一礼し、静かに部屋を後にした。
同じ日の幸福路──カフェ「幸福1号店」
レオンは、VV(薇薇)とMG(マリゴールド)を前にして静かに口を開いた。
「実は──三件の機密書類の入手、三件の誘拐、そして四件の暗殺依頼を受けている。協力してくれるか」
VVは眉をひそめる。
「機密書類はいいとして……人殺しはちょっと」
MGが尋ねる。
「機密書類って、どこから盗むの?」
「ブラックウェル家だ」
「じゃあ、誘拐の相手は?」
「アッシュ・ブラックウェル三世。──VV、おまえの父親だ」
「パパなの?」
VVは思わず声を上げた。
MGはさらに続ける。
「じゃあ暗殺のターゲットは?」
「それも全部、アッシュ三世だ」
VVはため息をついた。
「パパ、相当恨まれてるのね」
MGは肩をすくめる。
「VVのパパ、一度くらい死んでもいいかなって思ってたのよね」
レオンは二人を見渡し、改めて問う。
「協力してくれるか」
「……いいわ。協力する」
VVは覚悟を決めた。
■レオンの計画
レオンは机の上に依頼内容を書いた紙を並べた。
殺人依頼:A・B・C・D(4件)
誘拐依頼:E・F・G(3件)
秘密文書:H・I・J(3件)
「まず、Aの殺人依頼だ。アッシュ三世を“暗殺したように見せかけ”、気絶させる。
その様子を依頼者に見せ、暗殺成功と思わせる」
「続けて誘拐依頼Eだが、救急車で“死体”を回収し、そのまま誘拐依頼者に引き渡して誘拐成功と思わせる」
「しかし、その後、紅烈の仲間が誘拐犯の車を襲撃し、アッシュ三世を奪還し、俺の指定した場所に寝かせておく」
「指定場所で三世が目を覚ましたら──
B依頼の殺人 → F依頼の誘拐 → 回収。
さらにもう一度、
C依頼の殺人 → G依頼の誘拐 → 回収 を行う」
「計三セットで、暗殺三回、誘拐三回が成立だ」
VVは指を折りながら数える。
「でも暗殺は四件でしょ? 一回足りないけど」
「最後にDの依頼として、もう一回“殺す”」
MGは呆れたように言う。
「それ、本当に全部、本人を使ってやるの?本人は何も知らないんでしょ?」
VVは青ざめる。
「パパ、本当に死ぬかも……」
「安心しろ。殺しはしない」
レオンは静かに断言した。
数日後、幸福1号店。
レオン「○月○日に三世が外出するらしい。その日に決行する」
VV「了解」
MG「楽しみね」
■計画の実行
Aの殺人(の振り)→依頼者A「確認した」
Eの誘拐(の振り)→依頼者E「アッシュ三世を捉まえたぞ」
紅烈が車を襲撃し、三世を回収→指定場所に寝かせる。
アッシュ三世はふらふらと目を覚ます。
「ここはどこだ……私は気絶していたのか……」
背後にレオンの影が迫り、再び“暗殺”が行われる。
Bの殺人(の振り)→依頼者B「やったぞ」
Fの誘拐(の振り)→依頼者F「アッシュ三世を確保した」
紅烈が回収→指定場所に寝かせる。
三世「ここはどこだ……私は気絶していたのか……」
Cの殺人(の振り)→依頼者C「死んだな」
Gの誘拐(の振り)→依頼者G「間違いない、アッシュ三世だ」
紅烈が回収。
三世「ここはどこだ……私は気絶していたのか……」
三度繰り返した結果、アッシュ三世は完全にふらふらになっていた。
最後にレオンは三世の間近で爆弾を爆発させ、煙の中からアッシュ三世を救い出す。
依頼者Dは「やった!」と叫び、完全に死亡を信じ込んだ。
事務所に運び込まれたアッシュ三世を、VVが介抱する。
「パパ、命は助かったけど……生きてることがバレたら、今度こそ本当に殺されるわ。
敵が多すぎるよ。もう家には帰らないで、姿を隠した方がいい」
アッシュ三世は静かに告げた。
「アメリカ行きの船のチケットを持っている。ニューヨークで朱韺と暮らすつもりだ」
VV「お母さんと?」
三世「今から船に乗る。今日の夕方に出るよ」
翌朝、カーフェイは数紙の新聞を見ていた。
「アッシュ・ブラックウェル三世、○○で刺殺」
「□□で銃殺」
「△△で爆殺」
「××で誘拐」
と、矛盾だらけの記事が紙面を埋めた。
カーフェイは黒執事に尋ねる。
「親父はお前の手配したチケットで、ちゃんと船に乗ってニューヨークに向かったんだろう?」
黒執事「手の者が直接確認しております」
カーフェイ「まったく……新聞というものは」
ある夜、VV・MG・レオンはブラックウェル商会の事務所を訪れた。
VV「じゃあ、最後にちゃんと鍵閉めて帰るから、皆は先に帰ってね」
職員たち「はーい」
職員が帰ると、MGがつぶやく。
「完全な内部犯行ね」
三人は金庫室で機密書類を写真に撮る。
MG「これ、本物だけど……いいの?」
VV「古いのを渡しておけばいいのよ。国民党は最新型なんて作れないでしょ」
MG「じゃあ新しい設計図は?」
VV「そうね……レオンには必要ないよね」
レオン「ノラミに見せてやる」
VV「ノラミさんって彼女だよね?」
レオン「ああ、きっと喜ぶ」
MG「え?彼女へのプレゼントが軍艦の設計図なの?」
レオンはふっと笑った。
アッシュ三世はニューヨークに着くと、朱韺の行きつけのカフェへ向かった。
「朱韺──」
朱韺は別の男性とデート中だったが、アッシュ三世を見るなり叫んだ。
「バード……バードなの?」
二人は駆け寄って抱き合い、朱韺のデート相手は肩をすくめ、苦笑しながらその場を去っていった。
【s00019】