真夜中の侵入者

1929年、上海市紅江マリア女学校の寮で起きた奇妙な事件。

VV(薇薇)MG(マリゴールド)が通う紅江マリア女学校は、宗教法人白蓮会が運営するプロテスタント系ミッションスクールである。
白蓮会は紅江区に「白蓮書館」という出版社兼伝道師館を構え、白蓮会系の紅江マリア教会も設け、紅江区をアジア宣教の拠点として熱心に活動していた。(ただし、VVとMGは多忙であまり教会に足を運んでいない。)

紅江マリア女学校

9月に2年生になったVVとMGは、幸福商会と歌手の仕事が多忙で、学校に通う時間もほとんどない。
寮は20名ほど住める造りだが、実際の入居者は3学年×3部屋×2人=18名。
空き部屋が1つあるため、VVとMGはそこを勝手に使っていた。

マリア女学校の寮はヨーロッパ式で、水洗トイレ、大理石の洗面台、洋式バスタブとシャワーが共同スペースに備わっている。
VVとMGは仕事明けにシャワーを浴びて学校へ向かったり、学校からそのまま仕事へ行ったり、友人の部屋で寝かせてもらうこともあった。
二人が使うのは、たいてい3階の空き部屋――1年生の階である。

1年生は全部で6名。
● 中国籍2名
陸 曼麗(ルー・マンリー)/英語名:マリアン(Marian)
華やかなモダンガール。映画と音楽が大好きで、おませな性格。両親は海外在住。
林 詩音(リン・シーイン)/英語名:エディス(Edith)
文学を愛する良家の娘。成績優秀でいつも本を読んでいる。両親が映画関係者で不在がちなため寮暮らし。
● イギリス籍1名
ヒービー・楊(Hebe Young)
中国とイギリスのハーフ。内気で物静か。教会でオルガンを弾く美少女で、どこかミステリアス。
● フランス籍1名
クロエ・ルフェーブル(Chloé Lefebvre)/中国名:羅薇(ルオ・ウェイ)
フランス租界の商社の娘。上海生まれで明るく社交的。曼麗と特に仲が良い。
● アメリカ籍1名
エリザ・ハミルトン(Eliza Hamilton)/中国名:海莉莎(ハイ・リーシャ)
快活でスポーツが得意。写真撮影が趣味で、寮の生活をよく記録している。
● ロシア籍1名
アナスタシア・ヴォルコフ(Anastasia Volkov)/中国名:安娜(アンナ)
ロシア革命後に家族と上海へ亡命。勉学のため一人で寮に暮らす。静かで控えめ。

左から曼麗、詩音、ヒービー、クロエ、アナスタシア、後列エリザ

歌が上手いのは曼麗・クロエ・ヒービーの3名。
VVとMGは自分たちの仕事を減らすため、華影楼で彼女たちを歌わせることにした。
曼麗とクロエはデュエット、ヒービーはソロ。数回の舞台で人気が出始め、
曼麗&クロエは明るい楽曲で、ヒービーはロリータ的な容姿で人気となり、特にヒービーにコアなファンがついた。

ところで、マナナディアによれば、先生たちが「大掃除」と称して学校中を片付けているという。
MG「何故この時期に大掃除なの?」
VV「何か探しているんじゃない?あるいは何かを隠しているかも。悪い予感がする」

その悪い予感は的中する。
ある日、泥棒が入り教室が荒らされ、数日後には図書館・倉庫・書庫など別の場所も荒らされた。
しかし先生たちは警察に訴えず、ただ黙々と片付けるだけ。
まるで「賊が荒らす→先生が掃除する→また賊が荒らす」といういたちごっこ。

VV「学校内で怪しい動きは?」
MG「特には…曼麗とクロエ、ヒービーが夜に出かけるくらい」
VV「それは華影楼のバイトね。他には?」
MG「学校の周りをカメラ少年が取り巻いてるくらい。ほぼヒービーのファンだけど」
VV「敷地には入ってこないでしょう」
MG「コソ泥とは無関係かな」

先生たちの大掃除はほぼ終わり、残るは寮だけ。
そして賊がまだ入っていないのも寮だけだった。
マナ「次は寮が狙われるって噂です」
VV「私たちも今日から泊まり込む?」
MG「その方が良さそうね」

その夜、曼麗が外から侵入しようとする男の影を見つける。
曼麗「きゃあーーー!」
詩音「誰?怖い!」
一年生たちはVVとMGの部屋へ駆け込む。
さらにエリザが叫ぶ。
エリザ「大変!私の写真が盗まれてる…!」
寮で撮った写真がごっそり消えていた。
VV「こりゃ何かあるね」

先生に訴えても動きは鈍い。
一年生たちはVVとMGに助けを求めた。
「先輩、どうか解決してください!」

3日後の大雨の夜。
真っ暗な寮に、音もなくドアを開けて男が侵入し、懐中電灯の灯りで本棚を探っている。
1階の社交庁(コモン・ルーム)で1時間ほど探し続けていた男は、古い大きな本のようなものを開きながら「やっと見つけた」と呟いた。

VV「動かないで!」
MG「じっとしなさい!」
明かりを点けると、男はたじろぐ。
VVはその顔を見て驚いた。

VV「この人、マリア教会で見たことある。白蓮会支部長の趙(チャオ)・ルイシン師だ」
趙「白蓮会の大事な書類を探していたのだ…」
VVとMGがその本のようなものを確認すると、それは古いアルバムだった。
5年前と10年前の在校生の写真が載っている。

その時急に、雷鳴と共に電気が消える。
VVは懐中電灯で写真を見ようとするが「暗くてよく見えないなぁ」

しかし、雷鳴が窓を照らした瞬間――
そこに現れたのは、どちらのアルバムにも、にっこりと微笑むヒービーの姿。

MG「見た?」
VV「見た。ヒービーじゃん。しかも別々の年代に…」
MG「卒業写真には無いね」
VV「卒業してないんだ。でも本人そのまま」
趙「ああ、ばれてしまった…」

その時、ぎし、っと上から階段を下りてくる足おと。
手に燭台を持った女子生徒が一人、一歩一歩、階段を下りてくる。
雷鳴が瞬いて、階段から降りてくる少女を照らす…

ヒービーだ。ヒービーが蒼白な顔で降りてくる。
一歩、また一歩。
雷鳴がまた鳴り響き、閃光がヒービーを照らす…

そして、次の雷鳴と共に、ヒービーは、VVとMGに向かって突然走り出した。
VV「ひいいいい」
MG「きゃあーーー」
ヒービー「怖い怖い!雷ダメなんですーーー!」とVVとMGにしがみつくヒービー。
VV「私はあんたが怖い」

電気が戻り、部屋は明るくなる。
趙「聖女様…いえ、聖女候補様」
ヒービー「はい」

趙は告白する。
ヒービーは白蓮会ロンドン本部の聖女候補であり、
過去2回、公務が忙しく卒業できず、再び入学していたのだ。
VV「このアルバムの写真もヒービー本人?」
ヒービー「はい。今度こそ卒業したかったのです」

趙「私は聖女候補様がこの学校にいられるように、過去の痕跡を消そうとしました。しかし…」
趙は首を振り「最近は華影楼で歌手などを…。こんな環境に聖女候補様を置いておけない。さあ、行きましょう」
とヒービーの手を引いて強引に外へ連れ出そうとする。VVたちが趙を止めようとすると、校長ら教師たちが社交庁に入ってきて、VVとMGの前を遮った。
校長「趙ルイシン師、早く」
ヒービーは車に乗せられ、車は外に走り出ようとする。

雨にもかかわらず。学校外には大量のカメラ少年たちがいた。
VV「カメラ少年たち!ヒービーが誘拐された!」
ファン「何だって!」
カメラ少年たちが趙の車を取り囲み、車が立往生すると、ヒービーは迷った末、自ら車を降りた。
趙はカメラ少年たちの注意がヒービーに向いた隙に車を走らせ逃げていく。

ヒービーを連れて寮に戻ったVVとMG。校長がVVたちに真相を語った。
校長「ヒービー様には外部に知られてはならない秘密があるのです」
VV「落第したこと?」
校長「そうじゃなくて!」
ヒービー「私の息子、エリスが上海に居るのです。でもこのままでは、エリスはロンドンに連れて行かれてしまうかも…」
VV「聖女様に息子が?それが秘密ってわけね」

ヒービーの息子・エリスは白蓮書館に匿われており、ヒービーがロンドン行きを拒んだ今、エリスだけがロンドンへ連れて行かれるかも知れないのだ。
MG「VV、どうする?」
VV「助けるに決まってるでしょ。仲間なんだから」

港湾組織・紅幣の協力で、VVはエリスを乗せたヨーロッパ行きの客船を割り出した。
そして、VV・MGと紅幣組員、ヒービーファンは大挙して船へ乗り込む。

船に乗り込んだVV達の捜索を信者たちが邪魔をする。
カメラ少年たち「女神さまを探せ!」
信者たち「聖女候補様を渡すな!」
客室内では趙が幼い少年エリスに「お母様のところへ連れて行く」と説明していたが、エリスは信じない。
エリス「お母様が僕を置いて先に行くはずがない」

船を探し回り、エリスをみつけたVV「エリス!ママが迎えに来てるよ!」
「お母様が?」
エリスは趙を振り切って客室から甲板に走り出す。
ヒービー「エリス!」
母子は人ごみをかき分けて抱き合う。

ファンたち「尊い…」
信者たち「神々しい…」
VV「感動の場面だね〜」

上海に戻ったヒービーとエリスは幸福1号店の2階に転居。
ヒービーは幸福1号店で働くようになり、店の売上は急増。
華影楼でも人気は落ちず、教会では聖女候補として信仰を集め、
ヒービー人気はますます高まった。

校長室では――
教頭「教会本部の事件まで解決してしまうとは…」
校長「本部もヒービー様の学業継続を認め、エリス様を引き続き育てられることにも同意しました。全て丸く収まりました」
教頭「神が味方してくれたのでしょう」
校長「ええ、間違いありませんね」

【s00027】