注文の多い映画スタジオ

1929年、上海
華影楼で歌手になり、VV(薇薇)MG(マリゴールド)は、徐々に人気が出始めていた。
やがて上海映画会社から出演依頼が届いた。

VV「もしかして、主演?」
映画会社「いえ、主演は有名女優の王悠美(ワン・ユーメイ / Wáng Yōuměi)さんです」
MG「いいじゃない、せっかくだから出させてもらおうよ」
VV「じゃあ、MGと私は主人公の親友二人ということで」
映画会社「勝手にストーリーを変えないでください」

映画スタジオに入り、撮影が始まる。
VV「映画って細切れに撮るんだね」
MG「何回も同じ演技するのも疲れるわ」
ユウメイ「お疲れ様。二人とも初めてなのにすごいわ。度胸があるわね」
VV「度胸だけなら任せてください」
MG「度胸だけですけどね」

映画は上海を舞台に、女優が成功していくサクセスストーリー。
彼女自身の人生をなぞったような内容だ。
監督「ラブストーリーより、ファンはユウメイのイメージをそのまま投入しやすいからな」
しかし、撮影が進むにつれ、各国から政治的注文が入り、
シナリオが二転三転する。

国民党
「反共メッセージを入れろ」
「国民政府を称賛しろ」
欧米勢力
「共産主義を肯定するな」
「欧米文化を肯定的に描け」
ソ連(コミンテルン使節)
「労働者の世界革命を描け!」
「欧米と日本の強欲な資本家どもを打倒するメッセージを入れろ!」
日本のスポンサー(紡績会社重役・日本領事館)
「我が社の綿製品が上海やインドでいかに貢献しているかを描け」
「反日的な描写を削れ」
「ユウメイは中国人として華やかすぎる。もっと大人しそうな『日本に従順な中国人』にしてくれ」

共産党(地下組織)からは…
監督「今朝も撮影所のポストに『労働者の苦しみを描かないとスタジオを爆破する』って脅迫状が入ってたぞ!」
映画会社「国民党からは『反共映画にしないと営業停止だ』って言われてるのに!」

シナリオライターは頭を抱える。
「こんなシナリオ、どうやって書けばいいんだ!」

数日後、ユウメイが失踪する。
プロパガンダに利用されるのが嫌で姿を隠したのだ。
VV「何で?あんなに一生懸命やってたのに」
MG「一生懸命やってたから、嫌になったんでしょう」

監督「しょうがない、VVに主役を変わってもらおう」
VV「お任せください!」
MG「大丈夫なの?」
VV「映画を撮りながらユウメイを探そう」

シナリオ修正も待ったなし。
シナリオライターは完全にお手上げ状態。
VV「そちらも、私にお任せください!」

翌日から、マナ(インド人)、ナディア(ザンジバル人)、ノラミ(ロシア系韓国人だが中国人役)、美桜(日本人)、サバ(エリトリア人)もスタジオに来て撮影を続ける。

美桜:日本人女医役
ノラミ:車いすの中国人労働者家族役
ナディア:イギリスの圧政に苦しむザンジバル市民役
マナ:日本の綿製品に苦しむインドの綿花農民役
サバ:イタリアの圧力に苦しむ植民地住民役

美桜「中国に貢献している日本人だっているのよ!」
VV「共産党を撃退せよ!」
ノラミ「労働者は苦しんでるのだー」
MG「欧米が中国を近代化させるのよ!」
ナディア「イギリスにスパイス(クローブ)の利益を全部持ってかれるのはもうゴメンだわ!」
マナ「日本の安物コットンのせいで、うちのインドの綿花が全滅よ!許せないわ!」
サバ「イタリアのムッソリーニの威張った顔にはもうウンザリなのよ!」

VV「いちおう、全部入れてみました」
映画会社「また、勝手にストーリーを変えないでください!」
監督「いや、これは良いよ!これで行こう!」

ラストシーンでは皆が合唱し、
「色々な立場の人が一緒に暮らしているのが上海なんだ!」
と歌い上げて終わる。

試写を見て、
VV「…と、まとめてみました」
監督「こりゃ、いいよ、受けるよ」
監督のOKが出たので、試写会にVV編集版を出すことに。

MG「ユウメイさんも出たらいいのに」
VV「へへへ…」
MG「あなた、また何か考えてるわね」

試写会の画面に、失踪したはずのユウメイが映っている。
映画会社「な、なんだ!? ユウメイは降板したんじゃないのか!?」
監督「待て……これ、VVと入れ替わりでユウメイが映ってるカットに編集してあるぞ!?」
MG「あなた、夜中にスタジオでコソコソやってたのはこれだったのね……」
VV「ユウメイさんを撮り足したフィルムを、深夜にこっそり切り貼りしておきました」

ざわつく会場の後ろから、帽子を目深にかぶったユウメイが姿を現す。
「VVさんのシナリオなら、ぜひ出演したいと思ったんです」
と微笑む。

試写会後、映画会社の重役たちは議論する。
重役A「これは危険だ。どの勢力も納得しない」
重役B「いや……これは“上海そのもの”だ。若者はこれを求めている」
監督「私は……この映画を誇りに思う」

そして公開上映が決まる。
MG「ほんとにやっちゃったわね。めちゃくちゃとは言わないけど」
VV「上海は一部の力がある人だけのためじゃなくて、みんなのためにあるのよ」

【s00032】