1928年、上海市紅江区の幸福路。
VV(薇薇)、MG(マリゴールド)、マナ、ナディアの女学生四人で「幸福商会」を立ち上げたばかりの頃。
VVが人を雇い入れてはすぐに仕事を任せてしまうため、
「カフェ幸福1号店」で仕事上がりに皆でお茶を飲んでいる最中、そのことが話題にのぼった。

「VVさんは雇った人に何でも任せてしまいますけど、大丈夫なんですか?」マナが心配そうに尋ねる。
VV「だいたい大丈夫だよ。ミスをする人もいるけど、想定の範囲内だから」
「VVはすぐに人を信用するよね」MGが呆れたように言った。
「中学の時なんて私とほとんど面識が無かったのに、うちが破産した時、すぐに自分の家に住まわせてくれたじゃない?」
VV「私、基本的に人は見ればわかるよ。どのくらい隠し事をしてるか、とかもね」
ナディアが目を丸くする。「全て任せているのかと思ったら、全部計算済みなの?」
「計算は、ない。全てカン」
「カンなんだ……」MGが肩を落とす。
「でも、人を騙す人だっていますよね?」マナが重ねて訊く。
VV「私、嘘をつく人も分かるよ。その人がどんな見栄を張るのか、どのくらいの確率で嘘をつくのかもね」
MG「全てお見通しなのね」
「子供のウソもかわいいでしょ。すぐに分かるから。大人のウソも、罪のないウソは好きだよ」
VVは普段から、子供に集金を任せたり、幸福食堂のお客を平気でツケで食べさせたりしていた。
「食い逃げする人なら、一度食い逃げしたらもう二度と来なくなるから、それでも良いと思ってるよ」
「ミスはどうなの? 本人だって自分がミスするとは思ってないんだから、失敗なんて予想できないじゃない」とMG。
VV「ミスは確率で分かる。“あの子は仕事は速いけど、5%の確率でミスする”とか、“そろそろまたミスするかな”とかね」
マナ「ミスする人に任せて、心配じゃないんですか?」
VV「一生懸命にやってくれる人なら、自分でやるより任せた方が安心できる。誰だってミスはするし、全てのことを自分たちだけではできないからね」
MG「VVは敵まで信用して味方にするからね。チンパンに道で声をかけた時はビビったわよ。自分を誘拐した犯人なのに」
VV「誘拐と言っても、脅しだけだっていうのは最初から分かってたからね。チンパンは実は抜け目ないくらい慎重。つまり“真面目”なんだよ。それに、頼んだことは絶対にやってくれるでしょ?」
「真面目ねぇ……物は言いようだわ」MGは息を吐いた。
「VVは全ての人の心が読めるの?」ナディアが不思議そうに首をかしげる。
VV「本物の詐欺師だけは分からない。詐欺師は嘘をついている自覚が無いからね。自分は正しいと思っている。だから嘘が分かりにくい。でも、ロジックがおかしい時が多いから、話を聞いていると大体は分かるよ。……だけど、本物の詐欺師はロジックすら破綻しないから分からない」
MG「VVが嘘を見抜けなかったこと、あるの?」
その問いに、VVは昔を思い出すように遠い目をした。
VV「昔、ブラックウェル家の式典の時に、荷物を持って私に近づいてきたお爺さんが居たんだけどね。
その人は本当に、ただのお爺さんにしか見えなかったんだよ。
でも、荷物が爆発して……私を守ったボディガードが大怪我をして居なくなった。
彼は、もう死んでしまったのかもしれない」
テーブルの空気が重く静まり返る。
VV「爆弾が爆発した後、捕まったお爺さんは無表情だった。
その人に“人の心があるのか”と思ったよ。だから私は、詐欺師が許せないんだ。
自分でも嘘だと思っていないから、人を騙している自覚が無いんだよ」
【2026-08-22/260405】
☜茶話8 VVの幼少期
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