1928年上海市の幸福路にある幸福カフェ1号店。
お客が途切れた時間に、VV(薇薇)、MG(マリゴールド)、マナ、ナディアの4人が休憩しながらコーヒーを飲んでいる。
そこに青幣の紅烈がコーヒー豆の配送にやって来た。
青幣は陸上の商業組合、紅幣は港湾の商業組合だが、最近青幣と紅幣が手を結んだので こうして青幣が輸入物の配達もできるようになった。
紅烈「すごい量のコーヒー豆が届いてる。幸福商会はコーヒー豆の卸もやるようになったのか?」
VV「出来ることは何でもやるよ。豆は倉庫に入れておいて」
紅烈「了解」
紅烈の運送店では小型のトラックを買ったようだ。
紅烈と子供たちがトラックから手際よくコーヒー豆を倉庫に運び込む。
この子供たちは4人の男の子、東・南・西・北と、3人の女の子白・發・中である。
幸福路の近くに託児所があって、託児所を運営する10人の老人たちが、託児所を運営しながら、親のない子供たちこの7人の子供たちを育てている。
この子供たちは力が有り余って託児所から飛び出して行ってしまうので、
いっその事やることを与えようと、老人たちはVVと相談し、紅烈の運送店で雇ってもらうことになったのだ。
紅烈と子供たちが荷物を運び終わってカフェでお茶とお菓子を食べる。
子供たちはコーヒーよりお菓子が好きなようだ。
ナディアが子供たちの間に入って座り「かわいいわね」と東と南の頭を撫でると、 紅烈が驚いて「?」という顔をしている。
VV「紅烈、何驚いているの?」
紅烈「俺が頭を撫でると嫌がる癖に、ナディアが撫でても怒らないのはどういうことだ?」
白・發・中「ナディアが美人だからよ」
東・南「ちがうよー」
マナ「インドではよくある話です。大人が子供の頭を撫でると子供は怒ります『ばかにするな』って。」
紅烈「インドでは頭を撫でるのはばかにしている意味なのか?」
マナ「ところが、実は違うんです。子供が怒るのは、頭を撫でられたからではなくて、子ども扱いされたからなんです」
VV「そうなんだ」と、VVは西と北の頭をぐりぐりと撫でている。
マナ「子供の頭を撫でて可愛がるのはインドでも中国でも同じ。でも、インドでは12歳はもう一人前なんです」
紅烈「最近のうちの子供たちが頭を撫でられるのが嫌いになったのは、一人前になったということだったのか…」
VV「え、そうなの?私いつも皆の撫でてるよ」と、VVは引き続き西と北の頭をぐりぐりと撫でている。
マナ「VVさんは大人の頭でも平気で撫でますからね…」
【荷物1】西の場合
供たちは引き続き紅烈の運送店で活躍していたが、ある日、 西は小ぶりの箱をもって、ある住宅を訪ねていた。
西(小さい工場のような、家のような、変な家だな)
西はベルを鳴らし「お荷物です」
中から車椅子の女性が出てきて、「ありがとう。中まで運んでもらえる?落とさないでね、中のものが割れると大変だから」
VV達がお茶を飲んでいるところに、紅烈が走り込んでくる。
紅烈「大変だ。西が危ない」
VV「どうしたの?」
紅烈「日本軍の機密の劇薬を、西が配達に行ったんだ。大人たちの知らないうちに…」
VV「危ないじゃない。で、届け先はどこなの?」
紅烈「あいつ、伝票までもって行っちまったから、分からないが、近くの一般の住宅らしい…」
MG「品物は何?」
紅烈「日本軍からの荷物で、ニトログリセリンだ」
マナ「ニトログリセリン?」
VV「なんだ、届け先は分かったわ」
MG「この近くで軍から依頼を受けて爆弾の研究してる民間人なんて、ノラミさんしかいないよ」
紅烈とVVとMGはノラミの家に向かった。
ノラミ「西くんなら来てるよ。今、一緒にお茶してたところ。 ダメだよ~、子供にあんな危ないもの運ばせたら」
紅烈「すみませんでした」
平然とお菓子を食べている西。
【荷物2】南の場合
集荷所で荷物を受け取る子供達。
南「俺は何を運べばいい?」
大人1「あの箱に入っているのを動物園に運んでくれ」
南「分かった」
南は何気なく箱に手を突っ込み、蛇の首根っこをつかんで引きずり出す。
大人たちは気がつかない。
自転車の籠に蛇を入れて走り出す南。
運送店に残された蛇の箱には「猛毒蛇」と書いてある。
動物園に到着した南。
蛇の首根っこを掴んだ南が事務所に入って来る。
南「届け物だよ」と、職員に蛇を見せる。
女子職員「いやーーーー!」
【荷物3】白の場合
女の子が集荷所で、
白「私は何を運べばいい?」
大人2「重いものは大変だから、何か小さい物を運んでおくれよ」
白「じゃあ、これ運ぶね」と麻袋を持って出ていく。
大人3「あれ、ここにあった5000元の入った麻袋は?」
大人2「白が持って出て行ったよ」
大人3「あれ、幸福商会宛の現金だよ!」
【荷物4】東の場合
VVの事務所に紅烈が来ている。
VV「現金はちゃんと白が持ってきてくれたよ」
MG「大丈夫と言えば大丈夫だったけど…」
紅烈が「迷惑をかけたな」と謝ると、
紅烈の後ろから少年の声。
東「俺たちはそんなにドジじゃないよ」
紅烈「東か、どうした」
東少年「怪しい荷物があったんだけど、紅烈兄貴はこっちだって聞いたから」
紅烈「怪しい荷物?どれ、何もおかしいところはなさそうだが」
東「何言ってるのさ、この品名『一般的書類』っていうのがまず怪しいだろ?」
MG「ほんとだ」
東「次にこの宛先の、上海市紅江区○○洞○○“通常家屋”っていうのが変じゃないか」
VV「ほんとだ、これはクサイね」
MG「この封筒、中を見なくちゃ良く分からないわ」
VV「レオンなら、開かなくても中身が分かるかも」

レオンは店の奥に居る。レオンはスパイなのだが、最近、中立地帯である幸福カフェ1号店で情報を待っていることが多い。
レオン「いくら俺でも、開けないで中身が分かるわけないだろ」と作業を始めようとする。
MG「え、開けちゃうの?」
VV「どうやって開けるの?」
レオン「蒸気で糊を剥がすんだよ」
レオンが蒸気を当てて丁寧に封筒を開けると、中から出て来たのは、白紙が1枚。
MG「白紙?」
レオン「いや、炙り出しだろう。金属ペンでかいたのなら、筆圧で跡が残っているはずだが。これは中国紙に筆で書いたから跡が残っていない」
レオンは、中国紙の角にナイフを入れ、表面を引き剥がす。
「剥ぎというやり方だ。手すきの中国紙ならできる」
レオンは1枚の中国紙の表を引き剥がし、1枚の紙を2枚にした。
VV「すごいね。薄くなったけど、これなら見ても分からないよ」
レオンが2枚のうち、1枚をコンロで炙り、文字を解読した。
レオン「東くん、お手柄だ。俺は先日、ドイツ軍から飛行艇の捜索を依頼されていたんだが、この手紙によると、どうやら国民党軍がその墜落したドイツ飛行艇からパイロットの身柄を確保したらしい。本部に“どうすれば良いか”と指示を仰ぐ手紙だ」
レオンは炙っていないもう1枚の紙を封筒に戻し、丁寧に糊付けして元通りに封をした。
レオン「東くん、これを宛先の住所に届けてくれ。多分、返事を持たされるから、それを受け取ったらまた来てくれ」
1時間してから東少年が戻る。
紅烈「随分時間がかかったな」
東「もめてたみたい。はい、手紙」とレオンに渡す。
レオンは先程と同じやり方で封を開け、紙を表裏に裂いて、1枚を文字が浮かぶまで炙って読む。
クスッと笑うレオン。
VV「何て書いてあるの?」
レオン「“状況を鑑みて、適切に対応しろ”と書いてある」
MG「その意味は?」
レオン「“自分で考えろ”ということだ」
レオンは少し考えて「紙と筆を貸してくれ。筆は新品がいい」という。
レオンは紙と筆を受け取ると、本物の返事は破り捨て、新しい中国紙に砂糖水で何やら文字を書いた。
それを乾燥させ、同じように剥いで1枚を封筒に入れ直す。
VV「何て書いたの?」
レオン「『本部の指示する場所にドイツ兵を護送しろ』と書いた。東くん、これをもう一度さっきの出先機関に届けてくれ。紅烈、悪いが中国軍の振りをして、指定場所に出てきたドイツ軍兵士を受け取って解放してやってくれ」
紅烈「了解」
MG「受け取って来てって、荷物じゃないんだけど」
レオン「紅烈はその飛行艇が運んでいた荷物を受け取って、東くんに持たせてくれ。東くん、頼んだぞ」
東「分かった」
東が出先機関へ偽の指示書を届けたあと、紅烈は国民党からドイツ軍パイロットの身柄を受け取り、彼が希望する解放場所へと向かった。
東少年は飛行艇が運んでいた荷物である小箱を持ち帰った。
東少年がレオンに「これが運んでいた荷物だって。はい」と渡す。
VV「何これ?」
レオン「これは今回の任務で一番重要な、ドイツ軍からソビエト軍への機密文書だ。こいつで世界が変わる」
この頃、1922年ラパッロ条約により、ドイツとソビエトは秘密裏の協力関係にあった。
MG「そんな大事な物を東くんに運ばせたの?」
レオン「確実だろ?」
レオンはもう一度東少年に手紙を持たせる。「これは“出先機関から本部への報告書”だ。」
VV「何て書いたの?」
レオン「“現場の判断で適切に処理しました。本部には害が及びません”だ」
VVは「役所的だね」と言って笑った。
【2026-09-27/260430】
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