第35話 ミカンとモモの缶詰

1929年上海の春4月。幸福路。
VV(薇薇)は紅江マリア女学校1年生だったが、学校にはほとんど行かず、自身が経営する幸福商会の仕事で忙しかった。
VVは「暖かいから、幸福食堂じゃなくて外で食べよう」
とMG(マリゴールド)を誘って近くの公園に行った。

VVとMGが公園にランチを持っていく。
いつもなら、紅烈や、その知り合いの子供達がいるはずが、この日はまだ来ていないようだった。
その代わりにあまり見かけない男の子と女の子がいた。
VV「ねえ、あなたたち、一緒にご飯食べない?いっぱい持ってきちゃったの」
男の子「いらない。ご飯なら持ってる」と、2人は粗末な袋に入ったご飯を見せた。
VV「じゃあ、一緒に食べようか?」とにこっと笑う。
男の子は清朗(チンラン)、女の子は清花(チンホア)。年は7歳と5歳。
両親が亡くなって、今は母の妹(叔母)の家で生活しているのだという。

VVとMGは、清朗と清花の粗末なお弁当を食べ、清朗と清花はVVたちの美味しいお弁当を食べる。
そこへ紅烈の仲間達がやって来て、
「VV、ここにいたんだ。一緒にご飯食べよう」と輪になって座る。
みんな、銘々に分けあって食べる。

そこへ清恂が来て、「お前たち何やってるんだ」と怒る。
VV「何って一緒にご飯食べてるのよ」
清恂「(清朗と清花に)ご飯をもらっていたんじゃないのか?」
清朗と清花「違うよみんなで分けていたんだよ」

少年は清恂(チンシュン)。中学二年生。
清朗と清花の様子が気になって、昼休みに学校を抜け出してきたようだ。
紅江マリア女学校の兄妹校である紅江ヨハネ学院の中学部に通っている。

叔母は清恂に早く働いてもらいたいと思っているが、清恂は高校まで進学したいと考えている。
叔母さんの家にも子供が二人(男の子と女の子)がいるが、少年の弟と妹は、食事の量などで差別されてしまう。
貧しい中で姉の子供を育てる叔母からは仕方のないことなのだが、清恂は(子供を差別するなんて)と考えてしまう。

子供たちの声がマリア女学校まで聞こえたのか、いつの間にか、マナとナディアも学校を抜け出して来た。
マナ「楽しそうですね。お弁当ですか」
ナディア「私たちもランチ持って来たわ」
お昼を食べている間、清恂は目を白黒させる。
(何でお嬢さんが四人も来て貧しい子供たちとご飯を食べてるんだ?)
清恂は腹を空かせているが、意地でもVVたちのランチに手をつけない。

ランチを食べ終わると、子供達が 「VV、今日は何して遊ぶの?」と声をかける。
VV「そうだな、鉄クズか銅クズを拾いに行こうか」
マナ「じゃあ、今日は鉄と銅の市場価格の調査ですね」
ナディア「マナは真面目すぎ。遊びよ遊び」
MG「その真面目なところがマナの良いところよ。子供たちの勉強になるわ」

VVは清恂に「あなたも一緒に行く?」と聞くが、
清恂は「お、俺はいいよ」と答える。
VV「じゃあ清朗と清花は一緒に行く?」
清朗と清花「行く~」と、VV達と子供達が去っていく。
清恂は驚いて固まったまま見送り、やがて学校に戻っていく。

その夜、叔母さんの家の子供部屋で従弟が「今日は何してたんだ?」と聞く。
清朗「鉄屑を拾って売ったお金でお饅頭を買って食べたのよ」
清花「あんなにいっぱい食べたのは初めて」
清恂(不思議なことだが、それで良いのだな。でも、俺にはできないことだ)

清朗と清花が何回かVV達と遊んでいるうちに、叔母さんの家の子供達も行きたがるようになった。
清恂は(良いのか?)と首をひねるが
清朗は「じゃあ、明日は一緒に行こうよ」と、従弟を連れて行くことに。
清恂はその後も(誰でも仲間に入れるのか?)とずっと考えていた。

ある昼休み。清恂は学校を抜け出して幸福路の公園へ。
そこで子供たちとランチを食べていたVVに清恂が 「お前は子供達を集めて、何でこんなことをやってるんだ?」と聞いた。
VV「そうね、ビジネスのトレーニングかな。私には同い年の兄弟(カーフェイのこと)がいるんだけど、
あいつは、まず金持ちが儲けて、社員に分けるんだ、っていう考えなんだよね。
でも、私はみんなで一緒にやりたいのよ」
マナ「私はどっちも正しいと思いますよ」
(子供たちを集めてビジネスのトレーニングだって?)と清恂は不思議な心持ちになった。

清恂の叔母が、清恂に「最近、従弟同士が仲良いみたいだけど、何かあったのかい?」
清恂「最近、幸福路のVVっていう女学生と遊んでるんだよ」
叔母「VVって、あのVVさんかい?そうかいそうかい、なら安心だ。清恂、お前もVVさんと仲が良いのかい?」
清恂「仲良いというか、ただの知り合いだよ」
叔母「そうかい。知り合いかい、大したもんだ。見直したよ。お前がもしVVさんところの使用人でもなれたら大出世だよ」
と、叔母さんは上機嫌で家事に戻る。
清恂は「大出世だって?VVって何者なんだ?」

子供たちが遊びながらビジネスを覚えるのを見て、清恂も影響を受けた。
清恂がVVに
「うちの叔母が養鶏をやってるんだが、足を悪くして市場に行けなくなったんだ。 俺、おばさんの卵を朝市で売ってやろうと思うんだ。 朝市で俺が卵を売ると言ったら、叔母さんが小遣いをくれるっていうから、俺も助かる。そしたら教材が買えるんだ。 朝市なら学校に多少遅れても勉強はできるし、夜は勉強できる。」
VV「よかったじゃない。叔母さん喜んだでしょ?」
清恂「ああ、喜んでたよ。『助かる』って」

VV「卵を売るなら、いい場所を教えてあげる。市場じゃないけど、最近露店が多く出始めたの」
VVは清恂に地図を書いて渡してやる。
清恂「ありがとう」

翌日、VVの書いた地図の場所に行ってみると、露店が並んでいたが、隣も卵売りであった。
卵売りのおばさん「おや、あんたも卵をうるのかい?」
嫌がられるかと思ってどぎまぎしながら、清恂「ああ」と答える。
おばさん「じゃあさ、できるだけ大きな声で卵を売っておくれよ。
そしたらあたしも助かる。あたしは年取ってから大きな声が出ないのさ」と気にしない様子だ。

清恂はできるだけ大きな声で「卵だよ、卵だよ、おいしい卵があるよ」と呼びかけた。
大きな声につられて客が集まると、おばさんもできるだけ声をだして
「おいしい卵があるよ。白い卵ならうちで買って、赤い卵なら隣の兄さんから買っておくれ」と声をかける。
そこにVVも来て「やってるわね。私も呼び込みやろうかな。」
VVは大声で「おいしい卵がありますよ~。朝採れたての新鮮な卵ですよ~」
VVの声で大人たちが集まってくる。「おお、VV。元気良いな」
清恂も負けずに大きな声で「卵ありますよ~。赤い卵ならうちの店で、白い卵なら隣のお店の卵が最高だよ~」

この日はVVとMGは珍しく学校で授業に出ていた。
久しぶりに学校に行っても違和感がないのがVVのすごいところ。
皆、普段からVVやMGの噂ばかりしているから、VVもMGもいつも学校に居るように感じてしまう。
しかもVVは1年生ながら生徒会長である。

朝10時、紅江マリア女学校に清恂が駆け込んで来る。
守衛に清恂「VVの教室は!?」
守衛「2階の1年生のA教室だが」
清恂「大変なんだ」と駆け込んで行く清恂。
守衛「男子は入っちゃいけないんだが~」

VVの教室(授業中)に駆け込む清恂「すまない、VV、清花が居なくなった」
VV「なんですって?先生、私、早退します」
先生「理由は?」
VV「人助けです」清恂と駆け出すVV。
MG「先生、私も早退します。理由は同じです」
マナ「私も」とマナも駆け出す。
となりの教室からナディアも駆け出してくる。「おいてかないでよ!」

VV「清花はいつからいないの?」
清恂「朝市に一緒に行って、そこで居なくなった」
5人はまず、朝市へ向かう。
そこで朝市の長老格の人に会う。
「なに、清花が居なくなった?」
長老が近くの若い者に指示を飛ばすと若者が四方に散って、そこから更に伝令が走り、市場じゅうに指示が伝わる。
各部所から伝令が戻り「どこにもいません」
長老「市場にはもういないようだ」
VV「ありがとう」と駆け出す。追いかける4人

VVは幸福路近くの紅烈の運送店に行き、「清花が行方不明になったの。大きなトラックはある?」
紅烈「大きなトラックはない」
VV「分かった。トラックは別で調達する。紅烈は子供達を集めて!」
紅烈「よし、任せろ」
VV「電話を借りるわ」
紅烈「1階の大家のとこにある」
日本海軍紅江陸戦隊に電話をかけるVV。
「緊急です、霧島少尉に繋いでください」
VVのスパイ仲間であるレオン(霧島少尉)が電話に出ると、
VV「あ、レオン?頼みがあるの。日本軍のトラックを借りてきてくれない?」

電話を切って間もなく、激しいエンジン音とともにレオンが軍用トラックで運送店前に乗り付けてきた。
VVは紅烈に 「清花の足ではそう遠くには行っていないはず。紅江区全体に子供達を配置して、清花を探して。 みんな、清花の顔は知っているわね。迷子にならないように、二三人ずつで行動するのよ。 さあ、軍のトラックに乗って。レオン、子供達を紅江区の各ブロックに運んで」
レオン「軍のトラックで迷子の捜索か?」と言いつつ、子供たちを乗せて走り出す。嫌ではないようだ。

幸福カフェ1号店に居るVVに子供達の情報が集まる。
情報1「ヤクザに手を引かれて連れていかれたって」
情報2「大通りに向かって行ったらしい」
情報3「すごい人数に囲まれてたらしいよ!」
情報4「大通りのカフェで見つけた」
情報5「ヤクザと一緒にフルーツを食べてる!」
VV「ありがとう、すぐに行きましょう」
VVと清恂、MG、マナ、ナディアは駆け出す。

VVたちはカフェでヤクザ顔の男たちとお菓子を食べている清花を発見。
清花「あ、お兄ちゃん、VVお姉ちゃんたちも」
清恂「清花、こんなところで何をしてるんだ」
ヤクザ顔の男「すまないな。市場でこの子とお話をしているとき、お饅頭を一個もらっちまって。
お返しに何か食べさせてやろう思って、うちが輸入品を卸している店に連れて来たんだ。兄ちゃんには心配させちまったな」
清花「このおじさんにミカンとモモの缶詰を食べさせてもらった」
MG「この子の人懐っこさ、将来VVみたいになるんじゃない?末恐ろしいわ」
ナディア「ミカンとモモの缶詰なんて珍しいわね」
ヤクザ「うちは貿易会社でね」
MG「ヤクザじゃなかったんだ」

【AI作画】日本から上海に輸出したミカンとモモの缶詰のイメージ

男の横にいた妻「この子は大変優しくて、可愛らしくて…。 こうして一緒に過ごしているうちに仲良くなれたので、もし許してもらえたら、ぜひ私たちの養子にしたいわ。
大切に育てるし、近くに住んでるから、家族もすぐに会いに来られるだろうし、どうでしょう?」
清花は何事か、という表情。
清恂は少し困った顔で清花に「お前はどうなんだ?この小父さんと小母さんおうちの子供になりたいか?」
清花「やだ。私は今の家がいいし、今の友達と遊びたい。でも…。
この小父さん小母さんは、新しい友達だから、私が遊びに行けばいいでしょ。」

貿易商の夫婦はVVに向かって
「あなたに会って私たちの考えが変わりましたよ。子供たちを集めて教育をしているんだね。
どこまでできるかわからないけど、俺たちにも手伝わせてくれよ」とVVに名刺を渡す。
皆は(VVはただ子供たちと遊んでいるだけなんだけどな)と心の中で思う。

VVは心の中で(あ、思い出した。この人、日本からミカンとモモの缶詰を輸入している貿易会社の社長だ。
お祖父ちゃんと一緒に仕事でこの人の会社に行ったことあるけど、私のこと覚えてないよね)
貿易商の夫婦に向かってにっこりとわらうVV。
貿易商の夫婦「あなたどこかでお会いしたことが??」
VV「さあ、どうでしょう。ほほほ」
(この後、幸福商会はこの貿易会社を通して日本からミカンとモモの缶詰を輸入するようになる。)

VVは紅烈に清花が見つかったことを連絡。
紅烈の店では子供たちがみんな喜び、安心して帰って行った。
清恂「ほんとうにありがとう。VVにはいろいろなことを勉強させられたよ」
VV「え、そうなの?私は特に遊んでただけで、勉強はしてなかったけど」
MG「VVと一緒にいると、周りはいろいろと勉強させられるのよ」
皆で笑う。
その後ろでレオンは軍のトラックに乗ってそっと去っていった。

【2026-09-20/260428】

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