第38話 奇跡2 桃農園の奇跡

1928年、上海近郊。37歳の呉秀蘭の経営する桃農園。
この地域は水蜜桃の栽培で知られていた。

秀蘭は夫を亡くして以来、多くの労働者を雇いながら懸命に農園を守ってきた。
働いているのは、自身の土地を持たない日雇いや年季契約の“雇農(このう)”と呼ばれる困窮した人々だったが、秀蘭ができる限り手厚い待遇を心がけたため、彼らも喜んで力になってくれていた。

秀蘭は栽培方法にも工夫を凝らした。病害虫対策の袋掛けを取り入れ、独自の肥料によって収穫の安定化を図ってきたのだ。
桃には豊作(表年)と不作(裏年)を交互に繰り返す“隔年結果”の周期があるが、不作の年でも耐えられるよう対策を講じてきたはずだった。

しかし今年、予期せぬ事態が起こる。記録的な大豊作となったことで、傷みやすい桃は出荷調整ができず、桃が一斉に市場へ出回った結果、価格が大暴落したのだ。
出荷にかかる費用すら回収できず、農家が軒並み赤字に陥る“豊作貧乏”が多発。
秀蘭の農園もこの打撃を受け、桃をすべて売り切ったにもかかわらず人件費や資材代の借金だけが残り、頭を抱えることとなった。

秀蘭は家の前の椅子に座り、深くため息をついた。
「……もう、終わりね。夫が遺してくれたこの農園を必死で守ってきたのに、まさか豊作のせいで破産するなんて。」

その頃、幸福商会のVV(薇薇)とMG(マリゴールド)は、幼いパティシエ・狗蛋(ゴウダン)の作るお菓子が大ヒットしたことを受け、幸福カフェ1号店の製菓部門を拡張して製菓工場を作ろうと計画していた。

桃のドライフルーツ“蜜桃果脯(ミータオグォーフー)”をはじめ、中国茶と合わせたゼリーやプリンなどの“蜜桃烏龍(ミータオウーロン)”スイーツ。さらに、油酥生地に本物の果肉を包んだ“桃花酥(タオファスゥ)”も絶品だった。

VV「今年の桃のお菓子はどれも本当に美味しかったね。来年はもっとたくさん作れないかな?」
MG「それなら、今年のうちから来年分の桃を手配しておいた方がいいんじゃない?」
VV「何なら、農園をまるごと買っちゃおうか!」
MG「まさかでしょ!」
こうして二人は、特に美味しいと評判の桃農園を直接訪ねることにした。

秀蘭の桃農園に、一台の車が滑り込んできた。
スーツを着こなしたVVとMGが、運転手付きの車から降り立つ。
VV「こんにちは」
秀蘭「……どなたですか?」
VV「評判をお聞きして、こちらの農園をずっと探していたんです。ここを売りに出されていると伺ったのですが」
秀蘭「はい……二束三文で手放すつもりです。今年は市場が大豊作で価格が大暴落しましてね。出荷すればするほど赤字になり、借金が返せなくなってしまったのです。皮肉なものですね」

VV「素晴らしい農園なのに、さぞ悔しいでしょう……。もし差し支えなければ、うちの会社でこの農園を買い取らせていただけないでしょうか」
秀蘭「あなた方、農業のご経験は?」
MG「全くないです(微笑みながら)」
秀蘭「では、買い取った後に小作農へ貸し出すか、地権を売って再開発でもなさるのですか?」
VV「もし来年もここで桃を作り続けられるとしたら、収益を出せそうですか?」
秀蘭「来年は周期的に世間では不作の年になりますが、うちの技術とこの樹なら、来年も間違いなく質の良い実を実らせられます」
VV「決まりですね。では、この農園は私が買い取ります」
秀蘭「……本当ですか!?」

VV「はい。ただし私たちは農業ができませんから、これからもあなたがここを経営してください。そして来年、無事に十分な収穫が得られたら……その桃はすべて我が社が提示する適正価格で買い取ります。その利益で、あなたはこの農園を買い戻してください」
秀蘭「まさか……そんな夢のようなお話が……」
MG「この人はただ、美味しい桃のお菓子が食べたいだけなんですよ」
そう言って、VVとMGは優しく微笑んだ。

【2026-09-28/260506-1,260605-3(2)】

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