第44話 奇跡8 雑貨店の奇跡

1930年上海の紅江区。
雑貨店の若旦那 沈家宝(シェン・ジャーバオ)28歳。
家宝は、父の代から続く小さな雑貨店「沈雑貨舗」を継いだ若旦那。
棚には、昔ながらの生活用品が並ぶ。

1929年の世界恐慌発生直後、世界では不景気により物価は下落したが、中国は当時世界でも珍しい銀本位制であり、銀安による通貨安効果で銀の価格も下がったため、他国のようなデフレにならず、物価は横ばいか、むしろ若干上昇していた。
国内物価は落ち着いていたが、輸出が伸びず、海外からの投資が減るなど、不況の波は徐々に押し寄せてきた。

沈雑貨舗は珍しい品物を売るのが特徴の店なので、薄利多売にはできない。
しかも抱えた在庫を値段据え置きで売っていたため、儲からなかった。
品物が売れないのに、物価はインフレ傾向で仕入れ値は上がる。
競争相手の大型デパートや大商店は薄利多売で攻勢をかけてくる。
しかし、その大型店舗でさえもつぶれそうな経済情勢だったのだ。

家宝は昔から通って来てくれるお客のために店を続けている。
お客さんの好みの品物はとっておくし、荷物が多い高齢の人の家には届けて上げる。
家宝「非効率なのかな。これ以上値引きもできないし…。もう限界かも」

ある日、一人の女学生が家宝の店を訪れる。VV(薇薇)である。
「これ、何とかして手に入りませんか?」
VVが見せたのは空き瓶。
ラベルには“桑葉鹽”と書いてある。

家宝「ありますよ。量産してないから、手に入りにくいでしょ。はい、これ」
家宝「この桑葉鹽は、製法が変わってるけど、じつはただの塩なんです。でも桑の葉を薪にして塩を作るから、香りが良いでしょ?」
VV「詳しいんですね。ノラミさんに聞いてきて良かった。ここなら大概のものは何でも手に入るって言われて」
家宝「ノラミさんって、あのいつも変な薬品ばっかり注文するあの人ですか?」
VVはお目当ての品物を買って、満足そうに「また来ますね」と帰っていく。

VVの来店後、しばらくして料理人マリアが家宝の店を訪れる。
マリア「フランスの食材なんですが、手に入りますか?」
家宝「生き物でなければ大抵のものは手に入りますよ」
マリア「良かった。じゃあ、この食材をお願いします!」
家宝(少し注文が増えたな。良かった)

次に機械技師佐伯がこの店を訪れる。
佐伯「特別な機械油なんだ。手に入るかな。直ぐに必要なんだ」
家宝「これですか?そんなに急に言われても、直ぐには…」
佐伯「やはり無理か」
家宝「はあ、今日中に手に入りますけど、工場にお届けすれば良いですか?」
佐伯「今日中に?本当か、ありがとう!」
店を出た佐伯「どんなルートで仕入れるんだろう?凄いもんだ」

次に靴職人の陳伯福が来る。
「変わった鋲なんだ。手に入るかな」
家宝「どれです?え、これは…」
陳伯福「難しいのか?」
家宝「いや、作ってる人を知ってるんで、今から仕入れてきます。店番頼めますか?」
陳伯福「何時間でも待つよ!」
家宝は走って外に出る。
陳伯福は家宝の後姿を見て呟く。
「彼の頭には職人のリストでも入ってるのか?」

カフェ幸福1号店で幸福銀行頭取のハリスとVVが話をしている。
ハリス「沈雑貨舗は、物凄い可能性がありますよ。マリアさんのレストランも、佐伯さんの機械工場も、陳伯福さんの靴工房もみんな、順調じゃないですか。あの沈雑貨舗といろいろなビジネスを組み合わせたら、とんでもないことができるかもしれません」

VV「ハリスさんも楽しそうですね」
ハリス「はい、事業家の皆さんに、いろいろなアドバイスができて嬉しいです。じゃ、私はまたカウンセリングに出ますのでこれで」
と、外に飛び出していく。

カウンターの中にいたMG(マリゴールド)「ノラミさんに沈雑貨舗を紹介してもらったお陰だね」
VV「家宝さんも喜んでるかな」

その頃、沈家宝の雑貨店では、
家宝「忙しい、忙しい。配送は運送業の紅烈さんのところに任せるとしても、店の仕事で何人か入れないととても回らない。将来に向けて仕事を覚えてもらう意味で、VVさんに紹介してもらって丁稚を何人か入れようかな。それにしても、休みたい…」
家宝はため息をつきつつ、ふっと笑って「でも店を辞めなくて良かったな」と呟いた。

【2026-10-12/260506-1,260606(5)】

☜第43話 奇跡7 料理人の奇跡

第45話 劉凱(リウ・カイ)と教会の鐘事件☞