第20話 秘密の花園

※一部ネタバレがありますので、この回を読む前に「本編14 真夜中の侵入者」を読むことをお勧めします。

夜の華影楼(かえいろう)

上海紅江区の高級サルーン「華影楼」。
ジャズの生演奏が響き、男たちが酒を楽しむその場所だが
舞女(ウーニュイ)を買うこともできた。

純純(チュンチュン)は新人の中国人の舞女。
一途で不器用な性格ゆえ、客に媚びようとして、逆に怒られることもある。

女主人のミーナは、そんな純純に優しく言った。
「春を売っても、自分を安く売るんじゃないよ」

純純はやがて、店に来る花園優(すぐる)という男に恋をした。
仕事は銀行員だといい、真面目そのもの。
しかし、純純が彼と歩いていると、周囲は冷たい視線を向けた。
「日本人と付き合って」
その一言が胸に刺さる。

ある日、純純は華影楼の奥で、花園が男と密談しているのを聞いてしまう。
──彼は銀行員などではなく、実は海軍と陸軍の二重スパイらしい。
純純は動揺し、彼が自分に嘘をついていたことに苦しむ。

ミーナに相談すると、
「カフェ幸福1号店にVV(薇薇)という子がいるから、会っておいで」
と背中を押された。
純純はVVとMGが歌手として時々華影楼で歌っているのを知っていた。

昼間、純純は幸福1号店を訪れる。
店にはVVとMG(マリゴールド)がいた。
VVは純純の話を聞くと、軽い調子で言った。
「その匿名の誰かさんが二重スパイだなんて、私たちに話しちゃっていいのかなあ?」
MGは笑って続ける。
「だって、私たちも日本海軍のスパイなんだよ」

純純はショックを受ける。
VVは真顔になった。
「今の話だけで、そのスパイが誰なのかなんて、すぐ割り出せるんだから、簡単にしゃべっちゃだめだよ」
MGも言う。
「彼はスパイなんだから、本当のことはあなたにだって言えないよ。
でも、あなたが知ったことで、あなたも彼も危険になったのよ」
純純は震えた声で尋ねた。
「まさか、あなた達、私と彼を海軍に引き渡すつもりなの?」

VVは首を振る。
「いいえ。でも、あなた達はもう危ない。だから護衛をつける。ねえ、ヒービーいる?」

声をかけると奥から純情そうな少女が現れた。
「ヒービーです」
純純は驚く。
「この子、高校生じゃないの?この子が私の護衛?」
ヒービーはにっこり笑った。
「大丈夫です。任せてください」

ヒービーは学生だが、華影楼で歌を歌っているので、ミーナはよく知っている。
ミーナ「まさか、ヒービーをつけてくるなんて。ヒービーじゃ、舞女には見えないわね。何をやってもらおうかしら」
ヒービー「舞女の見習いにしておいて下さい。お願いします(にっこり)」

この日以降、ヒービーは純純について“舞女の見習い”を始めた。

花園優は海軍では「秘密の花園(Secret Garden)」と呼ばれていた。
謎が多く、陸軍に潜入するスパイとして動いていたからだ。

ある日、花園は海軍陸戦隊基地で少年二人を見つける。
しかし帽子を取ると、それはVVとMGだった。
「丹頂少佐や稲葉中尉と話していた少年二人が、実は女だった?怪しい」
VVは笑う。
「軍隊には女の子の姿では入りにくいからね〜」
MGも続ける。
「軍服より作業服が楽だよね〜」

花園は二人を追い、幸福路にたどり着く。

幸福食堂では、チンパンが人気者になっていた。
男1「なあ、餃子の兄貴、どっかで小麦粉が手に入らないか?50キロだ」
チンパン「わかった、あとで送るように手配しておく」
男1「助かるよ」
男2「こっちは米が欲しい。100キロだ」
チンパン「わかった、100キロだな。探しておく」

そこにVVとMGが帰ってくる。
VV「やあ、チンパン来てたの?」
チンパン「ああ、ここは不思議な店だな。ただいるだけで情報が集まってきて儲かる」
MG「だから、お客が増えて、私たちも儲かる。でしょ」

VVとMGを幸福食堂の近くで見失い、食堂に入った花園。
チンパンの横に座る。
チンパンはじっと花園を見る。
チンパン「あんた、ただ者じゃないな……情報があったら買うぞ」
花園(恐ろしい、ここはスパイの巣窟か)
チンパン「今、米を探していて、あとじゃがいもと……おい、聞いてるのか?」
花園は動揺して耳に入らない。

ある日、花園は探していた陸軍の機密を手に入れた。
逃げる途中、純純に危険が及ばないよう、華影楼の裏で純純に「別れよう」と告げる。この様子をヒービーが見ていた。
純純は花園の言葉が信じられず、花園の後を追い、家を探し当てる。
しかし家は陸軍に包囲されていた。

純純は裏から家に入り、机の上の機密書類の入ったカバンを掴んで走り出す。
花園「そのカバンを持っていたら危ない!」
陸軍スパイ「女が持っているカバンが怪しい!追え!」

純純は駅で捕まり、花園も共に拘束される。
陸軍は二人を列車で北京へ護送する。
しかし、列車内で花園と純純は、機密を奪い返し、走る列車内を逃げ回る。

VVはヒービーから伝言を頼まれた少女諜報団員から
「純純さんと花園さんが陸軍に追われて……」と知らせを受ける。
花園と純純が駅で捕まって列車に乗せられたと聞いたVVたちは
レオンに助けを求める。

レオン「俺は今ちょうど、陸軍スパイの裏切り者を捕まえるよう、
陸軍から依頼を受けたところなんだが」
VV「私たちはその花園さんを助けたいのよ」

駅に急行するレオンとVV、MG。
レオン「日本陸軍の霧島だ。スパイの裏切者が列車で逃走している。
追いかけるから協力しろ」
そしてレオンが「今出せる列車は何だ」と整備士に聞くと、
整備士「50年前の機関車しかありません」という。
レオン「いいから、出せ」

花園は先行する列車のなかで純純と逃亡劇を繰り広げており、
捕まるのも時間の問題であった。
レオンは先行する陸軍の列車が待避線に入るなどして時間を取っている間も、
自分の列車は本線を優先して走らせるよう指示し、先行する列車に追い付く。
(鉄道員たちは、レオンが裏切り者を追っていると言ったので、レオンの列車を優先させるよう各線に連絡した)

待避線で陸軍の列車に乗り込むVVとMG。
陸軍より先に、VVたちが花園を見つける。
花園「あなたは!」
VV「いいから、私たちのいう通りにして」

軍用列車に乗り込んだレオンは陸軍スパイに「応援に来たぞ」
陸軍スパイ「花園はまだ列車内に居るはずだ」
列車内をくまなく探す陸軍とレオン。しかし、花園の姿は無い。
陸軍とレオンは顔を見合せ、
レオン「どうやら、俺が乗り込む前に、この列車から逃げていたようだな。とんだ無駄足だったぜ」
実際には、VVとMGが花園と純純を後続の列車に移し、鉄道員の制服に着替えさせ、逃がしていたのだ。

後で花園に会ったレオンは言う。
「この機密は陸軍に返してやれ。日本海軍が日本陸軍の不正を暴いても、誰も得をしない」
花園は陸軍施設に忍び込み、機密を元の場所に戻す。
機密が机にあるのを見つけた陸軍士官は、
「機密がここにあるということは、盗まれたのはただの“かばん”だったのか?」と呆然とする。

花園は海軍を退官することにした。
丹頂「お前は優秀だ。だから海軍はお前を便利に使いすぎた。
もしもお前が間諜でなければ、お前は司令官になったかもしれない」
花園「少佐殿……」
稲葉「海軍でお前のことを知っているのは我々2人だけだ」
丹頂「そして今この瞬間から、私たちはお前のことを忘れる」
稲葉「お前は海軍にはいなかった。そういうことだ」
花園「でも、諜報機関で働いていたみんなは?」
丹頂「海軍の諜報部員が外に情報を漏らすはずがない」
稲葉「さっさと行け。道で我々を見かけても挨拶はするなよ」
花園「中尉殿」
丹頂「だが、陸軍はこの先もお前を海軍のスパイだと思っているだろう。油断するなよ」

華影楼をやめることになった純純にみんなが別れを告げる。
舞女1「元気でね。もう二度と帰って来ないでね」
舞女2「連絡はくれなくていいから、私たちのことは忘れていいからね」
純純「忘れられないよ」
舞女3「もうこんな店、二度と来ないでね」と泣く。
ミーナ「この店もひどい言われようだね」

華影楼をやめた純純は、花園と居酒屋「陽春館」を立ち上げる。
夜、2人の男(私服だが海軍の軍人)が訪れる。
丹頂「初めて来たが、いい店だな」
花園「あなたは」
稲葉「初めて来たと言っているだろう。貴様に会うのも初めてだ」
花園「はあ」

花園とは何も語らずに丹頂と稲葉は酒を飲んだ。
そして帰り際に
丹頂「初めてだったが、気に入ったよ」
稲葉「この店に迷惑にならない程度に、ほんの時々寄らせてもらおう」
と言って去っていく。

数日後、VVとMG、ヒービーの3人と子供が1人、陽春館を訪ねてくる。
花園「ああ、いらっしゃい。この度は本当に……」
VV「固い挨拶はいいから、何か美味しいものを食べさせて」
純純「お酒は何を召し上がりますか?」
MG「私もVVも未成年(17歳)だから、お酒は飲めないの」
花園・純純「えっ」
ヒービー「私は28歳だから、お酒をいただきたいです」
花園・純純「ええっ」

さらに純純はヒービーが連れている子供を見て。
「その子は…?」
「可愛いでしょ?私のむすこちゃんなの」
花園・純純「えええっ」

VV、MG、ヒービーは微笑む。
陽春館の夜は、静かに、温かく更けていく。

【2026-07-26/260420-2】

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