1928年上海の紅江区幸福路
幸福1号店と幸福食堂を開いたばかりの頃、幸福商会にはほとんど資金がなかった。
幸福1号店の店番をしていたVV(薇薇)とMG(マリゴールド)は、店の未来をどう支えるか話し合っていた。
VV「幸福1号店も幸福食堂も、祖父や父に言われたからじゃなくて、私の意志で始めたこと。だから運転資金も家からもらうんじゃなくて、自分で稼がなくちゃ」
MG「そうだね。でも、何か当てはあるの?」
店の中でその会話を聞いていたレオンが口を挟む。
「俺の知り合いのロシア人が歌手を募集している。歌ってみる気はあるか?」
こうして、資金難を乗り越えるため、VVとMGは華影楼という高級サルーンで歌手デビューすることになった。
華影楼を訪れた2人を迎えたのは、オーナーのミーナ(米娜/Mǐnà)。
南のベンガルに近い国境地帯の出身で、苗字は持たない。28歳。
ミーナ「私はカトリック。宣教師から洗礼を受けたわ。こんな仕事をしているから教会には行かないけどね」
涼しい目元と穏やかな物腰。
VVとMGから見ても、圧倒的な色気をまとった女性だった。
ミーナ「田舎で貧しく育ったけど、親を恨んではいないわ。
こんな仕事があるのもありがたいの。男たちが悪いんじゃない。ただ、社会の構造が悪いだけ」
歌のことは詳しくないと言いながら、ミーナはロシア人音楽家のサーシャを紹介する。
サーシャはロシア系移民で、華影楼の音楽全般を指導していた。
華影楼の音楽は主にジャズ。
バンドは、
・ロシア人のバンドリーダー
・中国人のピアニスト
・欧米人のホーン隊
・日本人のドラマー
という国際色豊かな編成だった。
サーシャ
「ちょっと歌ってみて。この曲は知っているでしょう?」
演奏されたのは「私の彼氏(Am I Blue?)」。
VVとMGが軽く歌うと、サーシャはすぐに反応した。
サーシャ「VV、あなた素晴らしいわ。音楽の勉強をしたことはあるの?」
VV「母がバイオリニストで、小さい頃からピアノは弾いてたわ」
サーシャ「なるほどね。MG、あなたは?」
MG「小学校と中学校で音楽の授業がありました」
サーシャ「2人とも、私のレッスンを受けてもらうわ。厳しくやるわよ」
サーシャのレッスンはVVとMGの才能を引き出し、華影楼の音楽世界に新しい深みをもたらした。
MGは厳しさにイラつきながらも、内心では彼女を尊敬していた。
VVとMGは週に数回、華影楼で歌うようになり、若い歌声と美しいルックスで人気が出始めた。

その頃から、サーシャは少しずつ自身の身の上を語り始める。
サーシャ「私はロシア革命で没落した貴族の娘。私に残されたのは音楽だけ」
革命後、上海には行き場を失ったロシア貴族が多く住んでいた。
そしてソビエト軍は亡命貴族の名簿を持ち、財産を隠し持つ者を探し回っていた。
ある夜、レッスン帰りのサーシャが男に襲われる。
近くにいたVVとMGは護身術で撃退した。
サーシャ「あなたたち、強いのね」
その後も数回襲撃が続き、2人はそのたびに彼女を守った。
VVはレオンに相談する。
「ロシア語だったから、ソ連のスパイだと思う。彼らは、サーシャの何を狙ってるの?」
レオンはソ連スパイと接触し、確認した内容をサーシャ、VV、MGに話す。
レオン「ソビエト軍は、サーシャがニコライ2世の資産を隠し持っているのではないかと疑っている」
サーシャ「持っているわ。でも全部は渡せない。半分だけなら…」
レオンの調整で、ソビエト軍は「隠し資産の半分渡せば命は助ける」と約束した。
ソ連スパイ「VVとMGは手強い。次はあの2人がいない時を狙うぞ」
彼らはVVとMGがステージに立つ日を狙い、サーシャに接触することにした。
サーシャは夜のカフェで男たちにダイヤの袋を渡すが、帰り道で捕まえられそうになる。
スパイ1「残りの資産はどこだ!」
そこへ影からVVとMGが現れる。
VV「嘘はいけないわね。もう手出しはしない約束だったでしょう?」
スパイ2「お前たち、ステージじゃないのか」
MG「今ステージでは、ミーナが歌っているわ」
華影楼のステージ上のミーナ。
ミーナは心の中で(歌は得意じゃないと言ってるのに…)と思いながらも、
客たちは彼女の色気ある歌い方を意外に気に入っていた。
VVとMGが男たちを制圧した後、レオンが姿を現す。
VV「この人たち、どうしてやろうか?」
レオン「シベリアに送って、本当の恐怖を知ってもらう」
後日、レオンお手でシベリアの強制労働に送られた男たちは叫ぶ。
「俺たちはソビエト軍のスパイなんだ!」
監視人「こいつら頭がおかしいのか?」
ある日、幸福一号店に来たサーシャは「いいお店ね」と腰かけた。店にはVV、MGとレオン。
サーシャ「3人とも今回はありがとう。本当のロシアの財産は仲間と隠している。ソビエトが終わって、政治がロシア人の手に戻ったら、国のために使わせてもらうわ」
レオン「俺も一応ロシア人だが、俺のような者もロシア新国家の対象に入っていると思っていいか?」
サーシャ「白ロシアだけでなく、あなたのようなアジア系も含めたすべてのロシア人が対象よ」
横でこの話を聞いていたVVはつぶやく。
VV「私はアメリカ人だけど、国家って何かなって思っちゃうのよね。
私はアメリカのために、そこまでできるかしら?」
MG「VVは宇宙人でしょ」
レオンは吹き出した。ミーシャも笑う。
幸福路には、静かに夕暮れが訪れていた。
【s00030】